ボヘミアン・ラプソディ和訳・深堀り①コーラスパート
今回から、この間和訳したものを深堀りします。
まずは、順番通り、コーラスパートからまいりましょう。
まずは最初の部分、
を深堀りします。
訳は、
これは現実?
ただの幻?
土砂崩れに巻き込まれて
現実から逃れられない。
としました。
まずは、韻(いん、ライム:rhyme)の解説です。
韻とはたとえば、bed, red, head(ベッド、レッド、ヘッド)など、
全部、「ェドゥ:ed」と発音するようなものです。
上記は短母音で、短いので最後の子音まで同じですが、
長母音だと、
cake, game, eight(ケィク、ゲィンム、エィトゥ)
など、ェイの部分だけ同じでもOKです。
最後の子音が同じでももちろんいいです。
feel, meal, deal(フィール、ミール、ディール)など。
わりとロックなどの場合は自由かもしれません。
さらにフレディは、詩の規則より、もっと音を重視している感じで自由な気がします。ラップに近いのかも。
この場合、4行のそれぞれの最後の単語は、
life
fantasy
landslide
reality
で、
順に、
ラィフ、ファンタスィー
スラィドゥ、リーァラティー
と、
アィ、イー
アィ、イー
となります。
文学的には、reality(現実)とfantasy(幻)という二つの対立語が出てきます。
韻のために、最初のrealityはreal lifeになっているのかな。justも数合わせかも。最初はIs this ~?で統一してあります。
また、landslideには、地滑りの意味のほかに、(選挙における)大勝利という意味もあります。雪崩のような票の流れ込みを表すのでしょうか。caught in a ~とは、冒頭にI’mが略されていると思われますが、自分で何かおこしたことというよりは、被害を受けた感じです。No e(scape) ~は低いはっきりした声です。逃れられない感が満載です。
因みにこのコーラスパートは、ビデオでは4人がうたっているようですが、全て12音別録りしたフレディのみの声です。色んな意味で彼の天才ぶりがうかがえます。
とにかく、このアィ、イー、アィ、イーを覚えていてください。
次です。
目を開けて
それを見上げて、視(み)るんだ
と訳しました。
韻は、
eyes
skies
see
アィズ、スカィズ、スィー
です。アィ、アィ、イーですね。
最初の2つは語尾z(アィズ)まで同じです。
さっきのところとまとめると、
アイ・イー・アイ・イー・アイ・アイ・イーと音頭のようになります。
skiesを無視しても、アイ・イーが3つ規則的に並んでいます。
ここで文学的に不思議なところは、「目を開けて、空を見上げて、see」
のところです。
目を開けたうえ、見上げてから、「見ろ」、とは?
人間の目はホントは真実の姿は見えていないということでしょうか。心の目で見ることかと思って訳しました。
seeには、わかる、悟るという意味もあります。
ただの韻を踏んでいるだけの無理矢理かもしれません。
とにかく、現実を見ろという意味でしょうか。急にyour eyesと”your”が出てくるので、天の声でしょうか。
ハーモニーが美しいです。
そして、意識がはっきりしたのか、次は自己紹介です。
(Ooo, poor boy,)
「僕はただの卑しい少年
(あぁ、かわいそうな子)
「同情はいらない。」
だって僕は、気ままな性格、
ちょっとハイで、ちょっと鬱(ウツ)、
と訳しました。
かっこ()の中は、歌詞カードにはありませんが、多重コーラスで、かぶさるように
”ooo, poor boy,”
と聞こえたので書きました。
「」は、フレディの声が1音か2音で、いきなりはっきり聞こえるセリフです。
まず、文学的意味の考察です。
I'm just a poor boy
は、かなり驚くべきセリフです。
自分のことを言ってるの?と驚きます。ここだけ声がはっきりしています。
自分のことだとすると、卑下しすぎですし、boyも言い過ぎです。もういい大人です(作詞したのは昔だそうですが、すでに20代後半)。総合判断すると、僕なんて才能のないただのガキ、という意味でしょうか。
また、この物語の主人公の設定も同時に表します。この主人公は、(のちにわかりますが、ママ達と生活している)ボヘミアンの少年か、という感じです。まだ10代くらいでしょうか。
poorには、貧しい、みじめな、かわいそうな、質が足りていない、不幸、不運、不健康な、などいろんな意味があり、単純な貧しいだけの意味とは限りません。
コーラスが、かわいそうな子、と繰り返すと、「同情は全くいらない」と突っぱねます。いろんな理由で卑しくはあるものの、誇りがある感じでしょうか。理由も言います。
コーラス風のまま、だって僕は、
Because I'm easy come, easy go,
A little high, little low,
と歌います。
easy come, easy goは慣用句で、
「(お金など)簡単に手に入ったものは、すぐに出ていきやすい」という意味で使いますが、
この場合は違いそうです。
ボヘミアンという意味の感じで、「その土地に来ては去る」、という感じだと思います。つまり、何か問題があればいつでも去れる遊牧民的な感じです。”easygoing”という性格を表す単語がありますが、自分が主語だし、性格を表している感じもします。イージーゴーイングは、なんでもいいよいいよ、という感じの寛大な感じの、または他人の過ちなどに寛容な性格です。
また、”easy come, easy go”のフレーズはあと(オペラパート)でもう一回出てきますし、”go” 自体も韻を踏むところで相当出てきます。過去分詞のgoneも出てきますが、「去る、また転じて、死ぬ」などの意味があります。
次は、”easy come, easy go”と同列に続く、
a little high, little low
です。
これも、性格や気質かと思います。ちょっとハイで、ちょっとウツ、と訳しました。
どっちも、韻が、最後のgoとlow(ゴゥ、ロゥ)で踏みます。小さい「ゥ」は必須です。ゴー、ローではありません。区別が必要です。特に低い「ロー」は「law(法律)」になっちゃいます。とくにイギリスでは、伸ばすときウゥゥーとウが強調されます。No!ダメー!って時もノーゥ!ではなく、ノウゥゥゥー!といいます。
easy goと、I'm a little lowが言いたくて、comeとhighはおまけじゃないかとも思っています。
この部分を最初から韻をまとめると、
boy, sympathy
come, go
high, low
となります。
語尾「イー」は、fantasy, reality, seeに続いての、sympathyですが、
seeを抜かせば「ァイー」の部分まで韻が同じです。
強引に言えば、boyも最後がイ(ァイ→ォイ)だったり。
easy come, easy goのところから2行は、ちょっと曲調が変調します。
冒頭の単語ですが、「イー」と繰り返し伸ばすところがあります(イーズィー)。
語尾は前述の「オゥ」(go, low ) が新たに加わります。
最後です。
「どっちにしたって風は吹く、」
僕にとっては、そんなに大したことじゃない。
「僕にとっては。」
と訳しました。
この2行は姿を変えつつ、3度この歌の中に出てきます。
キーワードですね。
「僕は卑しいボーイだ、同情は不要、理由は、ボヘミアンだからと、今ちょっと精神不安定気味だから、」まできていて、続きです。
「とにかく」、と、話をまとめます。
the wind blows
「風は吹く。」
「風の時代」が2021年からきているとのことですが、英語ではairであり、windではないようです。でも何となく同じ感じがします。ボブ・ディランの有名な歌も似た感じですね。日本でも風吹いてる系の歌はちらほら。
ボヘミアン的な感じもします。
そして、
doesn't really matter to me
は、のちには
Nothing really matters
となります。
多分主語の”It”が省略されています。
It doesn’t matter.
は、しゃべり言葉では、そんなことはどうでもいい、どっちでもいい、といった感じで使われます。
相手がしたことに、「気にしなくていいよ、こっちは気にしてないから」、みたいなニュアンスでも使います。
reallyは強調ですね。マジで、みたいな。
のちのNothing really matters. は、しゃべり言葉ではよくつかわれる感じではないものの、より強いです。まったく気にしてない、どうでもいい、といった感じでしょうか。
to me
はここで独唱風にも繰り返されます。
「僕にとっては」どうでもいいんだ、というのは、
世間にとっては大変なことだけど、僕にはどうでもいいというアウトローな感じを出しているのかもしれません。しかし、まだ具体的に何があったのかはわかりません。次に続きます。
または、僕にとってはどうでもいいんだと言い聞かせている感じもあります。僕は驚いちゃっているけど、僕のことを思ったら、そんなこと気にしなくていいんだよ、という感じです。
韻は、
・blows
・me
で、
blowsは前のgo, lowからきているのでしょう。オゥです。
meは、いつも最後を締めている「イー」ですね。fantasy系(reality,sympathy)より、see系です。
とにかく、締めは”to me”でした。
ここで、コーラスパートの訳は終わりです。
最初から韻をまとめると、
アイ、イーを繰り返し、
変調でオゥが入り、
最後はイーで締める、
といった感じです。
特に最後の2行がキーワードで、
その語尾のオゥやイーはのちもよく出てきます。
単語が単純な分、韻が踏みやすいのかもしれません。
しかしこれだけ韻を踏みながら意味が取れている風なのはすごいです。のちの物語のサマリーにもなっています。
意訳としてのまとめは、
あまりにひどい現実(または大勝利?)で意識朦朧となっている主人公。
天の声で開眼し、急にはっきりした声で自己紹介。
「僕は卑しき少年。同情は不要。」だって、
僕はボヘミアンだから。今はちょっとウツ気味なだけ。
そして、あの謎の2行(とにかく、風向きは変わるもの、そんなたいしたことじゃないんだ、僕にとっちゃ・・・)。
こんな感じで、フレディのみの歌の部分が終わります。
サマリーなので、謎だらけです。物語のイントロにふさわしいです。
次はverse(詩)の部分です。次に続くchorus(operatic section)に対抗してそう呼ばれるのだと思います。私はバラード部分と呼ぶことにします。「ママ~」のところですね。
お楽しみに!