リスク回避かユーザーフレンドリーか
EV市場の闘いは自動車そのものが売れるかどうかではない。急速充電器規格の標準が取れるかどうかの競争がEVそのものかそれ以上の重要性を帯びている。
急速充電器の標準を獲得し、自社の充電器を全国に配置することで、他社のEVであっても、「何キロ走行したか」「どの地域で走っているのか」などといったデータを取ることができ、それを新車開発にも応用できるし、ひいては沿道サービスなどモビリティに関係するマーケティングにも活かすこともできるのだ。
これまで、欧米勢の"CCS"、日本の"CHAdeMO"とが争ってきたが、テスラの「スーパーチャージャー」が存在感を表してきている。2022年の12月に発表されたスーパーチャージャーだが、2023年の7月にはフォードとゼネラルモーターズ(GM)に加えて、メルセデス・ベンツと当初CHAdeMO陣営だった日産自動車も採用を決め、2023年10月には米トヨタも採用を発表した。
テスラのスーパーチャージャーと日本のCHAdeMOとの違いはどこにあるのだろうか。テスラは、対応したEVなら社内から音声で充電を指示すると近くの充電器まで案内してくれてプラグを挿したら即充電が開始されるという利便性が強みだ。ケーブルも軽くて力がなくとも取り回しが簡単だ。ソフトウエアも製品もユーザーフレンドリーに出来ている。対してCHAdeMOは徹底的に安全性と信頼性を追求している。充電のためにはカードやアプリでの厳密な認証を求められ、プラグを挿した後も確認ボタンを押さなければ充電は開始されない。万一の漏電を防ぐためにもケーブルは太く重くなっている。
欧米では圧倒的にテスラのスーパーチャージャーが支持を受けたようだが日本国内の市場はどうなるだろうか。何かとリスクを嫌う国民性と言われるが、安全性のCHAdeMOは選ばれるであろうか。
かつて、国内大手家電メーカーがお掃除ロボを開発したが、「仏壇にぶつかって蝋燭や線香を倒して事故になったら責任が負えない」という理由で製品化を見送ったという話は有名だ。その後、米アイロボットのルンバが発表され世界でも圧倒的なシェアを得た。あの時国内メーカーが先に出していたら今の家電市場はどうなっていただろうか。
また、似たような事例は自動車の自動ブレーキにもある。国内メーカーが自動ブレーキを開発し、自社の自動車に搭載しようとしたが、国交省からストップされたという。「運転手が自動ブレーキに頼るようになり、危険だ」という理由だ。その後外国では自動ブレーキの研究と開発が進み、関連するセンサーやカメラを開発するベンチャーが躍進したが日本は自動ブレーキ後進国となってしまった。今では自動ブレーキのおかげで交通事故が大幅に減少していることは誰でも知っている。
さて、日本の急速充電器の規格はどうなるのか、それによってEVそのもののシェアがどうなるのか、日本人は何を選択するのだろうか。