第4回森の道整備活動 ~まだまだ道をつなぐ— 大海原を眺めに、尾根の道へ~
高田造園設計事務所スタッフの大平渓子です。8月22, 23日に残暑のなか新たな道の開拓を行いました。道なき道をコンパスと肌感覚頼りに進みながら、2日間で総長約1mの道をたどることができました。皆さまのご支援のもと貴重な経験をさせていただいていることに心より感謝申し上げるとともに、喜びや興奮を共有させていただけるよう、拙い文章ですがご報告申し上げます。
22日 動いている道
静けさの残る早朝、高田親方と私たちスタッフはこれまで整備した道を点検しながら未開拓の奥へと進みます。私たちが作った土留めを猪が動かして居たり、水道が変化していたり。私たちが目指す道は、一般的な公園の遊歩道のように変化に抗うものではなく、周囲の環境とともに変化し、育っていく道です。数か月前に整備した道がちゃんと変化していること、それでいて人が通る道として機能していることに安堵を覚えながら、前回のゴール、すなわち今回のスタート地点まで進みます。
先人の軌跡をたどる
スタート地点は尾根へと向かううっすらとした道。尾根にあがれば、大海原、そして布良の集落が見えるはずです。この尾根沿いに道があったのではないか?との高田親方の読みをあてに、スタッフ4名でまずは尾根を目指します。
尾根へと向かう道は谷津に入ります。谷津は雨がふるとぬかるんでしまうので、昔の人は谷津の中ではなく、その脇の山の斜面に道を通したはずです。そのまき道を探しますが、斜面が崩壊していて、なかなか道が見つけられません。
仕方がないので、上がれそうな場所から斜面をあがり、上から道を探すことにしました。すると、やや草の薄い場所にやはり先人(人とは限りませんが)の道。最新の注意でたどっていくと、古びたロープが木にしばりつけてあります。そうして先人の軌跡をたどりながら、なんとか尾根にたどり着きました。険しい道は、山を傷めないために少しルート変更が必要かもしれませんがひとまず先に進みます。尾根は予想通り、タケやツルといった藪に覆われていますが、ひるまず尾根沿いに東西にのびる道を探します。藪をはらいながら東側に進むと、なんと木に吊り下げたブランコがありました。
ブランコのそばにある木に登ると…ようやく、太平洋と根本の集落が見えました!
雨浸み込む山
喜びもつかの間、ぽたぽたと雨が降り始めました。雨脚が強くなりそうだったので、急いで下山します。雨が降るとやはり谷津はぬかるみ、道として使いたくないことがよく分かりました。利便性もですが、泥を生んでしまう道はその周囲の環境を荒らしてしまいます。泥が土の中の小さな隙間を埋めてしまい、土中と大気との健全な水や空気のやりとりが行われなくなってしまうのです。浸み込めなかった水は泥とともに川に流れ込みます。
雨は様々なことを教えてくれます。晴耕雨読という言葉がありますが、親方曰く、雨の日は読書をするという意味ではなく、雨の日は水の流れを読んだのだと。そうすると、晴れの日にどのように耕すべきかが見えてきます。
今回尾根から眺めた集落にある深さ70mの井戸は、これまで濁ったことがなく、しかもものすごい水量が湧いているそうです。この地下水脈は海で湧きだしています。大神宮の森に浸み込んだ雨の一部も、私たちの足元のずっと下でこの深い流れに合流し、陸で、海で湧き出し、さまざまないのちの営みを支えている。そう思うと、この雨浸み込む山の偉大さに自然と感謝と畏怖が湧き上がります。
23日 尾根をたどる
雨上がりの23日、これまで整備した道や縄文小屋周りの草刈りを済ませた私たちは、3人一組の2チームに分かれてそれぞれが別の谷筋をあがり、尾根での合流をはかることにしました。
尾根沿いの道、といっても尾根そのものを歩くことは極力避けます。尾根は乾燥しやすく崩れやすいので、道を置くにはふさわしくなく、道が崩壊の起点になりかねません。そのため尾根を少しまいた道を探ります。
尾根をたどる、といっても藪に埋もれた道では方向感覚や距離感が狂います。低山は地形の起伏が少なく、それでいて似たような谷や尾根が入り組んでいます。いつ迷ってもおかしくない緊張感を感じながら、自分の感覚と地図とコンパスを頼りに進んでいきます。私は普段からひとりで登山に行くことが好きなのですが、その理由のひとつは、この緊張感。未知の場をひとり進んでいくことで、五感が否応なしに研ぎ澄まされ、細胞ひとつひとつが生きようとしているような感覚を覚えます。自然に身を置くとは、かくも豊かな経験です。このような豊かな経験ができる貴重な森をどうつないでいくか?より多くの皆さまとこの森で活動できるようにするための道の整備、気合が入ります。
道はどこへのびていくか
尾根は次第にやせ細り、進むのに困難を極めたところでタイムアップ。下山して、別の谷筋からあがっていたチームと進捗を確認しあうと、なんともう少しで出会っていたところでした!
ただ多くのメンバーは、「尾根の道は険しく荒れており、散策ルートとして多くの人が歩くと山を痛めるのではないか?」という見解です。今回の道はやめるか、それとも山を傷めない道の整備を目指すか。ふと脇には、先人の解決策が埋もれているかもしれません。
文字通り手探りでの道の開拓は、これからも続きます。