第5回森の道整備活動~発見の宝庫、安房大神宮の森~
こんにちは。2024年9月17日、18日と安房大神宮の森の道整備活動を行いました。今回は、道の整備もさることながら、安房大神宮の森で先人たちが営んできた暮らしを現代に伝える痕跡を発見することができました。高田造園の田中嵩大がお届けします。
谷津田の跡を遡って
今回の整備は、現地での相談の結果、前回の活動で整備した道のちょうど真ん中に当たる谷津田の脇から、尾根筋につながる道を整備することになりました。
大神宮の森は、地域の人たちの暮らしの拠点であったことから、たくさんの田んぼ跡があり、それらの脇には道の痕跡が残っています。今回もそんな先人たちの通した道の跡を探し、たどりながら、整備を進めていきます。
まず手始めに、岩盤が削られて作られたと思われる谷津田の脇の道をたどっていったところ、早速岩盤から水の浸み出しが見られました。浸み出し水で道はぬかるんでいます。
こういう時は、水のしみ出しを助けるために、岩盤の際や道に溝や谷を掘り、その上に周辺の枯れ枝等を利用して橋を渡すことで、道を踏み荒らして泥を流してしまわないようにします。橋を渡せない時でも、ぬかるんだ泥を練らないように、丸太などを道において、その上を歩くようにします。
人が入ることでその土地を荒らしてしまわないように、自然が自ずとよくなる手助けをできるように、条件や状況がすべて異なるその場所ごとに向き合うことが重要だと思い知らされます。
そしてその先に進むと、今回のハイライトの一つに出会いました。
「横井戸」です。
岩盤に横穴が開けられ、その横穴から谷津田に向かって、水路が岩盤を削って掘られています。
長いこと使われていなったのでしょうか。中は泥がたまっていました。
先ほどの岩盤からの浸みだし箇所を整えたように、ここでも、岩盤からの水の浸みだしを助けるためにその泥をすべて出しました。
するとどうでしょう。とても美しい滑らかなフォルムが現れました。近くで見ると、岩盤を削りだした跡も見られます。
岩盤から浸み出す水を貯めるために横穴を堀り、貯めた水を谷津田の水源として、田んぼに引いていたと思われます。
先人たちが水源を利用しようとする中で、このように美しいフォルムの横井戸を作ったことに、生活と感性の結びつきの強さを感じました。
そして、人の手で掘られた横穴は上述の岩盤の浸みだしの崖下にもありました。こちらも同じように、岩盤を削りだして作られたもので、谷津田の水源として利用されていたと思われます。
こういうものを目の当たりにするたび、昔の人たちが自分たちの生活を営んでいく中で自然と向き合い、そこから自然と自分たち双方にとって良い形で、自分たちの求めるものを得ていくその見立てとそれを実現する技術を持っていたことに憧れを抱きます。自分たちが昔の人たちと同じ視点をもって自然と向き合うことができるようになれたらと思うと、とてもワクワクします。
明るい枝尾根へ
さて、道整備の中で出会った先人たちの証に別れを告げて、道整備に戻ります。
谷津田から枝尾根を上る道の跡をたどりながら、枝尾根に出ました。これまでの整備で出会った道とは少し異なる明るめの尾根です。風もよく通ります。また、ところどころ平坦な地形があります。
高田造園の高田代表によると、この尾根は土葬墓跡と考えられるとのこと。詳しくはこちらのブログをご覧ください。
土葬墓跡に出会ったのは初めてです。
この心地よい尾根に眠る人々とその家族の皆さんに思いを馳せました。
そして、さらにもう一つ。その枝尾根に、四角形に岩盤を掘ってできた、竪穴を発見しました。
こちらも溜まっている泥を全て出したところ、底も四角形で立方体状に掘られていました。
昔はこういった竪穴が尾根筋に作られていたようで、こういった竪穴に岩盤から水が浸みだすことで、下層の水が浸みだし水に引っ張られ、山の中を上下に水を動かして、山の水源涵養力を高めていたようです。
この水の動きは同じ山塊にある先程の横井戸にも影響を与えるはずです。
昔の人々が、日々の生活の中で山全体と向き合い、観察することで気付いて実践に至った造作なのでしょう。
とはいうものの、誰が掘った?いつ掘られた?なぜここを選んだ?なんで四角形?と、疑問は尽きません。まだ長い人生、これから自分でも観察実践して、その疑問を解消していきたいと思います。
ちなみに試しに入ってみると、五右衛門風呂的なサイズ感でした。
海からの風を感じに
その後も道整備を続けて、主脈の尾根に無事到着しました。
波の音は聞こえるけれども、海は木々が密集しており見えません。そこで、海側(南側)の斜面を整備して、風が通るように整えます。鬱蒼としていた斜面が、心地よい海風の通る斜面に変わります。
尾根から海が見えた時、自然と気持ちが高まります。昔の人たちもそうだったのでしょうか。もしかしたら、自分の家が見えた!などと話していたかもしれません。
大神宮の森は、森と海の繋がりを感じれる場所であることを改めて感じました。今後の森の整備を通して海がより良い海になることを願います。
博物館 安房大神宮の森
今回の道整備では、様々な痕跡を見つけることができましたが、大神宮の森が地域の人たちの生活の拠点であり、重要な場所であろうことが改めてわかりました。
ここまで昔の人たちの痕跡が残っている場所に出会ったのは私にとって初めてでした。安房大神宮の森は自然や生きものの視点だけでなく、民俗的な視点でもとてもワクワクする場所です。まるで生きた博物館のようです。
これからもこの安房大神宮の森の整備を通じて、過去にこの地域で暮らした人たちの積み重ねを、現代にこの地域で繋がっている人たちを繋げれるようにしていければよいなと切に思います。