![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171348617/rectangle_large_type_2_a00bc4c33cb0ccd109e397ff50273121.jpeg?width=1200)
太陽のように②
渋滞していたこともあり僕らはすぐに昼食の準備に取り掛かった。
チェアやテーブルの用意をする者、食材を切る者、焚き火のための可燃物を集めるもの、それぞれが分担して準備を進める中、コンドーは特に何もせず僕が2人分持ってきたチェアに座って既に酒を飲んでいた。
皆それを見ないようにし、なるべく早く昼食ができることを目指していた。
昼食を済ませ、焚き火を囲みながら談笑したり、そばの川で水切りをするなどして過ごしていた。普段の忙しない日常を忘れ、焚き火や川の流れる音を聴き、大自然に触れ大いに毒出しをした。
渋滞していた割にのんびりと過ごせた時間だった。
コンドーはその間もスマートフォンで動画を見ながら一人で酒を飲んでは時折僕らに雑に話を振って、飽きてはまた酒を飲みながら動画を見ていた。
正月や葬式の時にしか会わない遠縁の親戚のオヤジのようだった。
皆彼が何しに来たのか分からなかったと思う。
日が傾いてきて閉場時間も近づいてきたので、僕らは後片付けを始ようと動き出した頃、コンドーは遠くにチェアを持って行っていびきをかきながら寝ていた。皆目配せだけでもうお互いに何を考えているのか大体わかるようになっていた。時間も迫っているので無言で後片付けを続けた。
撤収が完了し、寝ているコンドーを起こして車へ乗り込んだ。
誰もが疲れていて話題も尽きている中、帰りの道中は睡眠をとって体力が回復したのかコンドーは終始五月蝿かった。僕らが会話する隙もないほど喋っていた。なぜ彼が眠るほど体力を削がれていたかは皆分からなかった。
レンタカーを返す頃にはあたりは真っ暗になっていた。最後に夕食を食べてお開きにしようということになり、近くの中華屋へ入った。
カウンター席のみの中国人の親子で営んでいるこぢんまりとした店だった。
中華ならではのスパイスの効いたつまみを食べながらビールを飲み
皆旅の疲れを癒していた。
しばらくするとコンドーがいきなり大声で話し出した。
店員の親子にも聞こえる声で、「酒がねえな、どういうことだ。」と言った。母親の方の店員がすぐに注文をとりにきた。コンドーの隣に座ってテレビを見ていたが、気付いたら彼は物凄いペースで飲んでいた。
「飲むのが早すぎだ、酔いすぎてる。」と僕は言った。
「うるせえな。誰に言ってるんだ。こっちはお前らと遊んでやって朝から眠い中盛り上げてやってるんだ。」
僕はコンドーと言い争いをしたことは今まで一度も無かったが、今日一日の彼の皆への礼儀欠いた振る舞いのこともあり、流石に呆れたようになにか言った。何を言ったかはあまり覚えていないが、最近おかしい、どうしてそうなってしまったのか。といった内容のことだったと思う。
他の客や店の親子も関わるまいと自らの範疇に没頭するようにしていた。そこからしばらく口論になったが、流石に人目が気になり始めたのか、コンドーはそれ以上声を荒げることをやめて静かに酒を飲んでいた。
車内でずっとコンドーと話していた友人が僕に気を遣って煙草を吸いに行こうと店の外へ連れ出してくれた。そこで今日一日コンドーの様子がおかしかったなど、あの時の目配せの答え合わせをしていた。
灰皿のそばで話していると、突然上着を持ったコンドーが何も言わずに店から出てきたと思ったら、そのまま車道に入り、赤信号で止まる直前に減速しているタクシーを無理やり捕まえて乗り込み、そのまま大通りの奥へ消えていった。突然のことで皆なにが起きたのか分からずにいたが、
先ほど少し口論になったことでバツが悪くなり、帰ったのだ、起きたらまた普段の彼に戻っているだろう。ということでその日は解散した。
僕はコンドーの家に泊まった際の着替えや翌日の仕事道具を置いてきてしまっていたので、少し悩んだ。今は会いたくない気持ちだった。だが持ち物を回収しないことには翌日仕事もできないので、少し時間を置いてコンドーの家へ向かった。
家につき、借りていた鍵を開けたが、よほど怒っていたのか扉にはチェーンロックがかかっていた。仕方がないのでその日はそのまま自宅へ帰った。しかし僕はもうその時すでに以前のように彼とは関われないのかもしれないと思っていた。
翌日朝早くに起きて、コンドーの家へ再び赴いた。チェーンロックはかかっていなかった。鍵を開け、部屋へ入ったがコンドーの姿はなかった。
奥の部屋で荷物をまとめ終わったころ、コンドーがトイレから出てきた。
「お別れの挨拶もなしか?」
僕は何をしてやれただろう。
彼にとって僕があの太陽のように何の見返りも求めず
ただ無条件に光を与えられる存在ならどれほどよかっただろうか。
街をゆく通勤中の人々は両手に大量の荷物を抱え、
道の真ん中で空を眺めている様を迷惑そうに見ていた。
いいなと思ったら応援しよう!
![awabuk](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170653757/profile_9c89c0b0350bc7d03836ef1322bbf870.jpg?width=600&crop=1:1,smart)