ツナマヨ①
もう日が落ちるか落ちないかの頃、じわじわと頭痛に気付き目が覚めた。
デスクの方に目をやると、つけっぱなしのMacがもう17時前だと言っていた。この時間にはもう部屋に日が届かない。
というかもう日は落ちているのではないだろうか。
部屋が暗い分、消してから寝ろと意義を申し立てている
Macの光が、目の奥から余計に頭痛を引き出していた。
どのくらい寝たかもよく覚えていない。僕はベッドの傍に適当に脱ぎ捨てられたスリッパを片足ずつ慎重に足に嵌めて、洗面所へ向かった。
顔を洗い口を濯いだ。口の中の水分のほとんどは昨夜飲んだ酒のせいでほとんど失われていた。ヨーグルトとマヨネーズの酸味だけを抽出したような味がした。鼻が詰まっていて口で呼吸しながら寝ているのだ。
歯磨きを済ませ、キッチンでグラスいっぱいの水を3回飲んで、薬箱にあった聞いたこともない名前の頭痛薬を飲んだ。会社で箱ごともらったやつだ。効いた試しがないが、飲まないよりはましだろう。
どうも最後の店を出る前ぐらいからの記憶が曖昧だ。
ただでさえ雲のように浮遊している記憶にさらに靄がかかっている。
新宿三丁目あたりで友人と飲んでいたのは覚えているのだが、
どのようにして帰ってきたのだろう。
電車は嫌いなので乗らない、タクシーに乗っていればクレジットカードなどの利用履歴で分かるがそれもない。
まぁこうして自宅で目覚めることができたのでよいのだが。
相変わらず僕の頭の血管を輪ゴムで縛って堰き止めているような脈打つ頭痛が続いていた。
何か胃に入れれば少しはましになるかと思い冷蔵庫を開けたが、
あるのは消費期限が2日過ぎた卵と穀物酢だけだった。
調理すればどうにかなるものですらなかった。
マヨネーズでも作れというのか。
仕方ないので牛丼的なものを食べに行くことにした。
寝巻きから長袖のヘンリーネックのTシャツ、上からユニクロのパーカーを着てジーンズと靴下を履き、丁寧にスリッパを脱ぎナイキ ペガサスに履き替えた。
駐輪場のアルミの扉を開けると、僕の自転車のハンドルに赤い紐のようなものが括り付けられていた。紐はマンションの敷地と外の世界を隔てる壁のところで折れ曲がっていた。
僕はまた何かめんどうなものを持って帰ってきたのではないかと思い、
すぐに紐の先を確かめることができなかった。
昔同じように酔っ払って、帰り道に駅前のタワーマンションのロビーにある小さめの観葉植物を持って帰ってきてしまったことがあった。
翌日警察から連絡があり、植物を返すように怒られた。
その時は酔っ払っていたということで厳重注意で済んだのだが、マンションの管理人が被害届を出していたら不法侵入で捕まっていたかもしれない。
僕は恐る恐る壁の奥へ伸びている紐を触りながら、先の方に目をやった。
そこには中型程の犬が寝ていた。