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帰省 ②

 昼過ぎに起きて、洗面所で歯を磨いていると父が入ってきた。
「大掃除するよ。」父はとっくに準備はできているといった様子で僕にそう言った。

久々の連休でゆっくりできるつもりだったので正直面倒だった。
しかし僕が居なければできないこともあるのだろう。
僕は口を濯いで、持ってきたトレーナーとジャージに着替えた。
その日も雪が降っており、実家の廊下はものすごく冷たかった。

 大掃除とは一体何をするつもりなのだろうと思っていたが、
単純にすぐに捨てられるものは捨ててしまおうということだった。

父はリビング、僕は寝室のクローゼットを担当した。
整理していると古い任天堂のゲーム機が出てきた。
まだ小学校に上がる前、よく父とやったものだ。

白黒の、今では考えられないほどシンプルなゲームだが、当時はこんなものでも楽しかった。他にも色々懐かしいものや、僕もその存在を知らなかったものも多く出てきた。

 しばらく整理を進めていると、古い外国の紅茶缶の様な箱が出てきた。
表には英国の馬車のようなものと、ドレスを着て傘をさした女性の絵が描かれており、厳かなデザインだった。そこまで高価なものにも見えないが、安物にも見えない。ところどころ錆びついており、開けるのに手こずった。

 中には白い封筒が2つ入っていた。手紙だ。そこには
亡くなった母の筆跡で、僕の名前が書いてあった。
もう一つの封筒には妹の名前があった。

僕は見てはいけない物を見つけてしまったのではないかと思った。
しかしすでに僕の心は中身を読みたいという好奇心に支配されていた。
自然に手が封筒の糊付けを剥がそうとしていた。
父にこれは何か尋ねようかとも思ったが、僕は黙ってそれを読むことにした。

手紙には亡くなった母の筆跡でこう書かれていた。

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