大下佑馬の神宮ロード
いつ読んでも100%泣ける野球コラムがある。
ライターは、つば九郎。クライマックスシリーズ史上初のノーヒットノーランをくらった日の、神宮の光景が目の前に広がるこの文章の“あるところ”にたどり着いたとき、私は必ず泣いてしまう。
—— そのご、せんしゅは、べんちからにもつをもって、ぐらんどからくらぶはうすへ。うつむくせんしゅに、みんなのはげましのこうけいが、あったかすぎて、たまんなかった。うちのせんしゅは、ぶきようなところがあるから、こんなとき、どうかえしていいのかわからない。ただうなずくのがせいいっぱいにみえた。
神宮は、勝っても負けても、客前をとおって帰っていく。1塁内野側のフェンス沿いは、いつからか『神宮ロード』と呼ばれ、私はいつでも選手を見送ってから帰路につく。
負けた日には、選手たちは「マウンドに向かうのか」という角度でベンチから出てくる。フェンスとの距離をあけて歩くためだ。
負けが込むと、酔っ払いのヤジも増える。だが、その怒鳴り声をかき消すほどの「頑張れ」が、戦い終えた選手に向けられる。負けてもいつでもあたたかなヤクルトファンの声燕に、所在なくうつむきながら帰るヤクルトの選手たち。悔しさを抑えきれない表情の時もある。腹立たしい時に優しくされて、余計にむかつくこともあるだろう。それでも、ファンの視線をまといながら歩いていかなければならないのだ。
そんな選手をかばう、つば九郎のこの一文。あの日の選手たちのことを、どうかわかってほしい。あの時、顔を上げられず、手も振れずに帰っていった選手たちのことを認めてほしい。つば九郎は、選手代表で、ファン代表だ。これがたとえ計算ずくの畜ペンの言葉であったとしても、私は涙を止められないのだ。
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2019年4月18日。今季初先発の大下佑馬は、3回1/3、6失点で降板した。流れを作れず早々にマウンドを明け渡してしまったこの日、チームも5対13と大敗してしまった。
帰りの神宮ロード。ヤクルトファンの声掛けはいつも一緒だ。男性ファンの大きな太い声が響く。
「佑馬!次頑張れよ!」
静かにうなづく佑馬。
また、目撃してしまった。うつむく選手と前を向かせるファンの、涙の神宮ロードだ。
正解は分からない。でも、神宮ロードは、静かで体温のある、そんな場所だ。
ゆうまさん。新たなシーズンが始まります。またいつか、神宮ロードで会いましょう。
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