勝たせたい人を勝たせる強さ
先輩の近本光司も、指揮官の矢野燿大も。
「じゅんやじゅんや」って。
愛されていることが、よく分かる。
8回表。ヤクルトの攻撃は2アウト、代打・西浦直亨から始まった。
実況の村田匡輝アナウンサーが、プロ野球史上初となる西浦の初打席を振り返る。
飄々と、プロ初打席初球初ホームランという偉業を成し遂げた、とてつもない新人、なおみち。解説の野口寿浩も「彼は、そうですよね」と納得の口調で同意する。
空気を読まない男。それが西浦直亨なのだ。
西純矢の初登板。スーパールーキーは5回87球ノーヒットでマウンドを後続に託した。西純矢の初勝利を背負った岩崎優の変化球を、センター前にはじき返した。終盤、ようやくのチーム初ヒットだった。
なおみちが読まなかった甲子園球場の熱気を帯びた空気は、急にピンと張り詰めた。
続く塩見泰隆も空気を読まない。同級生、山崎晃大朗の代打で今日初登場の塩見は、ライト前ヒットで存在感をアピール。2アウト1・3塁とした。
そして、中村悠平。7回に悪送球で1点を献上してしまった責任を取るかのように、レフト前ヒットを放ち、3塁から西浦生還。これで、1点差とした。
なおもランナー1・3塁。迎えるのは、山田哲人。
空気を読むな。山田哲人。
こっちは必死だ。悪いが、首位を叩いてAクラスに食らいつく、この絶好のチャンスを逃したくないのだ。昨日は大勝した。やっと阪神に1勝した。今日も勝ちたい。
このまま逆転すれば、甲子園は荒れる。岩崎がどんな目に遭うか。しかし、勝ちたいのだ。そして、山田哲人に打たれたとなれば、阪神ファンはさておき、世間は西純矢に同情し、応援の声は大きくなる。それでいいじゃないか。
結果は、山田哲人のセンターフライ。3アウトチェンジとなった。
8回裏、追加点を許したヤクルトは、負けてしまった。西純矢を勝たせたい阪神の、思惑どおりの結果になってしまった。
わざと負けてやったわけではないのだが、勝たせたい勢いに押された結果なのだとしたら、これはかなり悔しい。
ウチだってね!奥川さんみたいなスーパールーキー抱えてるんだよ!奥川さんを勝たせないと、世間が納得せんでしょう?だからね、勝たせないといけないわけ!
そこで、勝たせてやれるかどうか。
それがチーム力なのかも知れない。強ぇチームは、勝たせたい人を勝たせることができる、ということだ。
――プロ初勝利を経ての、今後、西純矢投手へ期待するところ、どんなピッチャーになってほしいという風に期待を込めますかね?
「純矢自身ね、お母さんをよろこばせたりとか、高校野球のときもね、天国のお父さんに、という思いで投げてきたものが、プロとしての第一歩がね、今日踏み出せましたので、そういうところで僕たちは、ファンのため、応援してもらえる人のため、もちろん自分のためでもあるんですけど、そういうところもこれから思い描きながら、頑張ってくれたらなと思います」
矢野燿大監督勝利インタビューより
R3.5.19 wed.
T 3ー1 S
阪神甲子園球場