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【写真部】昇る道を見届ける 清水昇の到達点【2021年度ベスト写真】
カメラ女子(女子)に、「今年の1枚は?」という質問がどれほど酷なものか、カメラ女子(女子)でなくとも想像がつくだろう。
望遠レンズを抱え、球場に日参する私(女子)。独学で“網を抜く”私(女子)の撮影は、「質より量」だ。1試合平均3000枚の写真たちから、選りすぐりの1枚などどうして決められようか。
何万枚、何十万枚から「1枚を選べ」と言われれば、熟考したくなる。どんな基準で選ぶのか。
びったりピントのあった奇跡の一枚。
バズった渾身のガッツポーズ。
疑惑の判定を覆すスクープ。
発表するからには、褒められたい。しかし、そんな出来とは関係なく、「ピン」とひらめいた写真が1枚あった。こういうものはインスピレーションなのだとつくづく思う。芸術に正解はない。
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撮影日 2021年10月1日(金)
撮影時間 21:11
撮影場所 マツダスタジアム
デバイス NIKON D5500
サイズ 12MB 6000×4000
シャッタースピード 1/320秒
絞り値 f/6
焦点距離 380mm
ISO 3200
初めてのズムスタは、神宮よりもピントを合わせやすかった。LED照明の明るさが、かなり助けになっている。
ナイターで、ISO3200。そりゃあ、これくらいのノイズにはなる。ズームしてはいけない。大体で見てほしい。
ズムスタの写真を深夜のホテルで見返していると、この1枚に釘付けになった。選んだ理由、というより「今年の1枚」と言われ即決できた理由。それは、ただ一つ。
尊い。
清水昇は今季、2年連続2回目の最優秀中継ぎ投手となり、50ホールドというNPB記録も打ち立て、優勝、日本一に貢献した。しかし、彼の尊さは、タイトルや記録にあるわけではない。
2017年ドラフト1位で入団したしみのぼくんの1年目は、11試合登板0勝3敗、防御率7.27。即戦力として期待された大卒ルーキーは、結果を出せなかった。
2年目の躍進は、1年通して学んだその苦しみを生かすことができる、真面目な性格のしみのぼくんだからこそできたことだ。
ヤクルト球団がいち早く取り入れた「ホークアイ」。登板後にはアナリストチームへ出向き、フォームの確認を怠らない。打たれたあとは、しっかり修正してマウンドに上がる。
試合日にだけ開店するグッズショップ・神宮球場店にふと立ち寄ったしみのぼくんは、グッズにさらさらとサインをし、帰りに車で通りがかったときには、スタッフに「お疲れ様でした」と声をかける。
抑えた後の、力強いガッツポーズ。マウンドを降り、ベンチ前でぐりんと振り返り、野手全員を迎え入れてからベンチに下がる。
或る日のツイッターに、「今、しみのぼくん“絶対大丈夫”って言ってた!」というつぶやきが上がった。現地民だった私は、帰宅後録画を確認した。
言っていた。口の動きではっきり分かった。
「絶対大丈夫」の訓辞を胸に、マウンドに上がったしみのぼくんは、自分の足元を見つめ、目の前のバッターをどう抑えようかと一球一球考え、真剣に投げていた。
たしかに今季の優勝は、しみのぼくんが手繰り寄せたものだ。しかし私は、しみのぼくんが優勝させてくれたピッチャーだから「尊い」と言っているわけではない。
野球だけじゃない。野球に取り組む姿勢や、人に対する態度。すべてにおいて誠実な若者だということを、神宮にいて実感しているからこその「尊い」。なのだ。
素直で純粋な若者。しかし、今年の清水昇はそこで留まらなかった。
日本一となった神戸での、石山泰稚とのツーショットがインスタグラムに上げあられた。カメラが苦手で、拒絶し続けてきた石山の、満面の笑みとピースサインはめずらしい。そんな石山の、自然体の笑顔を引き出せるほど、この二人の距離が近いことも知らなかった。
NPB AWARDS 2021の席で、清水は「打たれても下を向かず、悩んでいる姿を後輩に見せない。石山さんの存在は大きかった」と言っている。
石山は今年苦しんだ。重なる救援失敗に、二軍での調整も余儀なくされた。
神宮に戻ってきた石山は、二段モーションになっていた。ベテランと呼ばれる年齢になっても、スランプを脱するためにもがいていた。その苦しみは、計り知れない。
2020年のスワローズファン感謝DAY。「名場面ランキング」という今年の活躍を振り返るコーナーで、石山が言った言葉を思い出す。
「やっぱり中継ぎ、名場面ないなって(隣の)清水と話してたんですけど、打たれた試合の方が印象に残るので」。
抑えて当たり前。打たれればすべての責任を負う中継ぎ。打たれてベンチに戻り、泣いたこともあった。つらい経験を重なる中で、中継ぎの苦悩という壁に当たってもなお、弱みを見せない石山の強さを知った。
契約更改では、中継ぎ投手の思いを球団に伝えた。
中継ぎという仕事は、するかどうか分からない登板に向け、いつもブルペンで肩を作り準備をしている。そんな「見えない数字」の評価方法について、見直しを訴えたのだ。
「僕なんかはセ・リーグ優勝した時も、日本一になったときもテレビに出ることはなかった。それくらい中継ぎって評価されにくい部分ではあるのかなと。もっと評価されてもいいポジションなのかなとは思いました」
素直さに、強さが加わった清水昇。打たれて泣いていたしみのぼくんは、もういない。
こうして頼もしく成長を続ける清水昇が昇る道を見届けるのが、ヤクルトファンの醍醐味だ。
だから私は、しみのぼくんが投げるたび、こうつぶやき続けよう。
清水昇の到達点は、まだ先にある。