井野卓は、八重樫幸雄だった ○S×C●8回戦

井野卓さんを語る時、必ずつけるハッシュタグがある。

#セクシーキャッチャースグル

大人の色香を醸し出すソース寄りのお顔。何も言うまい云わすまい。3球団で積み重ねた経験を若いピッチャーたちと共有すべくコミュニケーションを取り、準備をするベテランキャッチャーは、体調不良のあきおと交代で出番が回ってきた。

プロ野球人生初の三塁打。走る、走る。走る36歳の姿を見て奮起したのは、ネクストでその激走を見ていた23歳の廣岡大志だった。犠牲フライで井野を帰塁させ、同点の閉塞感を打ち破った。
その後、坂口智隆36歳、塩見泰隆27歳の連続タイムリーで一気に畳みかけ、3点差に突き放した。
ほほう。井野卓が塁に出れば、こういうことになるのだな。鏡を置かれたら戸惑うほど、顔が緩んでいるのが分かる。

次の回ではスクイズを決め、一塁へのヘッドスライディングを試みた。上田剛史を進塁させたことがどれだけ価値のあることか。追加の1点を加えたヤクルトは、4連敗を止めた。

ヒーローインタビューも久しぶりだったようだ。

「何も考えず、必死に走りました」

若手に押され、また体を休ませながら出番を調整し、出場機会を減らす、ベテラン。
キャッチャーというポジションは、体力とは反比例に“経験がものを言う”仕事だと言えると思う。だから、西田の代役ではなく一野球職人としてグラウンドを任された。

そして、必死に走ったのだ。

頭が下がる。いてくれないと困る人だった。

今季の恒例となった、突撃ウォーターシャワー。山崎晃大朗、村上宗隆、古賀優大のいたずらっ子3人組は、今日もヒロインボード裏でスタンバイ完了。
ヒーローインタビューが終わり、井野の視界に入った村上の行動が、なんだかおかしい。

かけないの?お水。

自分にかけた!

こーたろーも優大も、自分にかけましたとさ。

睨みをきかせる、大パイセン。広島・黒田慶樹にウォーターシャワーを浴びせようとして、あまりの威圧感に我が頭上でウォーターサーバーをひっくり返した鈴木誠也を思い浮かべた野球ファンも多いだろう。

こっちが勝手にセクシーキャッチャーだなんだと好きなことを言っている間も、井野卓は、敷居の高いベテラン選手だった。

八重樫幸雄だ……

ドリームゲームの高津臣吾、神宮トークライブの栗山英樹。異口同音に「怖かった」と言わしめた、八重樫幸雄の存在が重なる。

「怖くないですよ。ただ、黙るだけです」

八重樫さん、それがいちばん怖いんです。笑

井野卓が、八重樫タイプなのかは知る由もないが、後輩を見つめる優しい笑顔は、やはりチームにいてくれないと困る人だった。

R2.8.6 thr.
S 9-5 C
明治神宮野球場


いいなと思ったら応援しよう!