打つかと思った。大志のことだからてっきり
6回裏。讀賣巨人軍の攻撃。代打で登場したのは、移籍後初打席となる廣岡大志だった。
「ジャイアンツファンも、そしてスワローズファンも拍手を送ります」と実況が言う。たしかに、球場全体を包み込むような拍手の音だった。
対戦投手は、原樹理。2015年、あの、あの!真中満の「フェイクガッツポーズ事件」のあった例のドラフト!明治大学の高山俊をド派手に外し、新たに1位指名したのが原樹理だった。そして、廣岡は2位でヤクルトに入団した。その二人が相対している。ユニフォームは違う。これは、紅白戦ではないのだ。
結果、空振り三振。
打つかと思った。大志のことだから、てっきり。
廣岡大志の初打席は、記録と記憶に刻まれている。2016年シーズン終盤、1軍昇格後スタメンで出場した試合は、横浜DeNAベイスターズ・三浦大輔投手の引退試合だった。
横浜スタジアムは、番長の最後の勇姿を見届けようと駆けつけたベイファンであふれている。球場中が、その一球一球を見逃さぬよう息を止めて見守る。
そんな中、打席に立った廣岡。さぞかし緊張していることだろう……いや、こいつは違った。
廣岡大志の初打席初ホームランは、三浦大輔最後の登板だった。高卒ルーキーの初打席初本塁打は、セ・リーグでは56年振りの快挙だった。
空気を読まない、大モノ。だから今日も、移籍後初打席初ホームランくらいのことはやってのける。敵チームながら、そんなことを期待していた。
私は、ビジターの試合は見に行かない。ましてや、東京ドームなど。
チケットの買い方も分からなければ、カメラ女子としての振る舞い方も自信がない。だから私は、勝手知ったる神宮にしか出没しない。大志を撮るのも神宮と、そう決まっていた。
しかし、神宮の大志はビジターユニフォームだ。今日のホームユニは、認めたくなくても似合っていた。
白地に「GIANTS」の文字がまぶしい。キャップの「YG」が浮き出て見えた。このユニフォーム姿は、ドームに行かないと、見られない。
今日の大志を見て、「これからも私は廣岡大志を追いかけたいのだ」と気づいてしまった。
代打からそのまま交代し、7回表、「東京音頭」をバックにショートまで小走りで向かう大志。
ウィーラーに声をかけ、キャッチボールをする大志。
ダグアウト裏に下がるとき、一礼した大志。
そうか。ドームは客前を通って帰るわけではないのだな。
東京ドームの風景になった廣岡大志を、見に行きたいと思ってしまった。
そして、神宮の室内練習場を讀賣の同僚と出てきて、球場の外野出入口から3塁側方向へ歩いていく大志と遭遇したら。
そんなことを想像して、涙がにじむのだ。