塾高応援で思い出した、櫻井くんのこと
第105回全国高等学校野球選手権大会、2023年夏の甲子園は、神奈川・慶応義塾高校の優勝で幕を閉じました。おめでとうございます。
平日昼間は仕事です。終業のチャイムが鳴り、スマホを開けばもう試合は終わっていました。
8対2。案外点差がついたな。
そう思いながらネット記事に目を滑らせていくと、話題は「1世紀ぶりの優勝」と「応援の音量」のことでした。
慶応側の応援は、球場を揺るがす大音量だったようです。歴史ある学校なので、足を運ぶOBもたくさんいたのだと思います。
ましてや、1916(大正5)年第2回大会以来の優勝となれば、一般の観客も「歴史の証人になるかも知れない」という期待を膨らませ、自然と慶応に加勢していたかも知れません。
球場全体が慶応を勝たせようとする雰囲気だったのかも。
そう思ったとき、私は7年前の試合と、とある選手のことを思い出しました。
2016年8月14日。第98回全国高等学校野球選手権大会2回戦第3試合。
愛知・東邦対青森・八戸学院光星戦は、9回裏、東邦が4点ビハインドからの逆転サヨナラ勝利を収めた、記憶に残る試合でした。
このときの「球場の応援」が、物議を醸しました。
一時は7点差まで広がった点差を、東邦がじりじりと詰め寄り、逆転の気運が高まる中「タオル回し応援」が始まりました。
このタオル回しは、一気に球場中に広がり、スタンド一周がタオルを掲げ、東邦を後押しする形になりました。
八戸学院光星のピッチャー、3年生の櫻井一樹くんは試合後、
と語りました。
これを乗り越え、逆に楽しむくらいでないとダメだ。
なんて、高校生の櫻井くんには言えません。
高校野球は、母校や贔屓校に限らず、たくさんの野球ファンが「両方頑張れ」の姿勢で見ています。
つい、劣勢の高校に熱い応援が集中します。
このときも、東邦の猛攻に、土壇場での大逆転への期待が集まりました。
そしてその応援が、相手チームのピッチャーの制球を乱しました。
現在では、タオル回し応援は自粛となっており、各校行っていません。しかし、タオルというアイテムの問題ではないということを、今回の慶応の大声援に対する賛否で思いました。
このときのピッチャー、櫻井一樹くんは、東京ヤクルトスワローズジュニア出身の選手です。*2
「櫻井一樹」という名前に見覚えがあった私は、ジュニアトーナメントウェブサイトのバックナンバーで名簿を確認しました。
2010年に小6なら、2016年は高3で計算は合います。
この代のチームメイトには、北海道日本ハムファイターズの五十幡亮汰選手、千葉ロッテマリーンズの佐藤奨真選手、フジテレビアナウンサー山本賢太さんがいます。
やはり、この子か。野球を続けるだけでなく、全国大会に出場するレベルを維持していることに驚くとともに、頑張って青森を代表するピッチャーになった彼を誇りに思いました。
大変な思いをして、傷ついただろうと心配もしましたが、その心配は無用でした。
櫻井くんは、この悔しい気持ちを糧に、東北福祉大学に進学し、野球と向き合う日々を選びました。
これ以降の進路を追えなかったので、野球は引退しているのでしょう。
元気でいてくれれば、それでいいのですが。
外野手の落球で失点を許してしまった試合展開について、声援に声掛けをかき消されたことが原因かと問われた仙台育英の須江航監督は、
と語っています。
当事者は誰も、応援のせいにはしていません。だから私も、応援のせいで勝った負けたと決めつけることはしません。
それは、実力を出し切った両者に対して失礼です。
今回のことが、櫻井くんのときのように議論を呼ぶことになるかもしれませんが、それは然るべき人に任せるとして、私は、慶応の優勝と仙台育英のスポーツマンシップがかすれることのないよう願っています。
そして。正々堂々と戦った人に拍手を送ります。
再放送を見ながら。
*1
*2
https://npb.jp/junior/2010/roster_s.html
*3
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