何故に君は褒め称える

ビジターゲームの中継で褒められるなんて、よほどのことじゃないか?

今日の阪神対東京ヤクルトの中継。スカイA実況は、寺西裕一アナウンサーだった。

あぁ、あのときの!

2020年11月4日水曜日。阪神甲子園球場での対阪神第23回戦。東京ヤクルトスワローズがサヨナラ負けを喫した試合の実況を担当したのが、この寺西アナウンサーだった。

試合後、中継カメラは、サヨナラ勝利に沸き立つ甲子園と阪神ナインではなく、敗戦したヤクルトのベンチで立ち上がれないキャッチャー・西田明央を映し続けた。西田のその悔しそうな表情から、カメラは離れない。

寺西アナは、解説の野口寿浩氏にその理由を丁寧に聞いていく。ヤクルトの選手で、バッテリーコーチだった野口コーチが、的確にその西田の表情に隠された最後の一球を解説した。

キャッチャー・野口が語る失投、というより、配球ミス。とても分かりやすい解説だったのはもちろんだが、その西田の心理を追求するべく投じたパスは、ビジターチームの情報ももれなく伝える、プロの采配だった。

今日の、寺西アナ。途中出場の塩見泰隆と並木秀尊の「足」を、とにかく褒める。
もちろん、褒めるに値する足を持った二人だ。しかし、今日はビジターゲーム。当然、ホームチームの情報過多になるところだ。ビジターゲームにおいて、それは織り込み済み。逆の立場になれば、フジテレビoneの中継では、きっとヤクルト寄りの実況になっているのだろうから、お互い様だ。

それでも、一昨日の5月16日、対中日戦のスーパープレーについて、幾度も触れた。並木の、俊足を生かしたレフトフライのダイビングキャッチと、塩見の、センターからのバックホーム。
痛恨の引き分けとなってしまったあの試合の、キラリと光った若い選手のプレーを、何度も褒めた。

9回2アウト、ランナー1・2塁の場面。一塁走者は塩見、二塁走者は並木。
「俊足の二人が出塁しています」。否が応でも盛り上がる。甲子園球場は、水を打ったように静かだ。暴投でそれぞれ進塁し、2アウトながら得点圏に二人の俊足が到達した。

……そのまま、試合は終了してしまった。しかし、11点差のワンサイドゲームだったからだけでなく、褒められた余韻の残る、いい試合だった。

若手の台頭、俊足の魅力。それがたとえ敵チームのことであっても、それを誇りに思い、希望と夢を重ねるファンがいる限り、こうして褒め称える人がいる野球という世界は、いつでも熱く、あたたかい。

並木くん、初安打初打点おめでとう!寺西アナも、記念のボールが手元に戻ってきたことを、よろこんでくれていたよ。

R3.5.18 tue.
T 3ー14 S
阪神甲子園球場

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