絶対に戻ってこい 西浦颯大
開幕延期となり、日常から野球がなくなった2020年。選手たちは、見えない開幕に向けて体を維持するために自主トレを続け、合間には、退屈しているファンに寄り添い、SNSでの情報発信を積極的に行っていた。
東京ヤクルトスワローズの選手たちは、頻繁にインスタライブを行ってくれた。若手は戸田寮暮らし。部屋に何人か集まりインスタライブをする。コラボでいろいろな選手とつながり、会話し、寄せられたコメントに応える。
選手たちのプライベートに触れ、選手たちを近くに感じるこの時間は、野球のないさみしい気持ちを明るくしてくれた。
ある日のインスタライブ。村上宗隆がコラボを始めた。相手は、オリックス・バファローズの西浦颯大。
同級生のふたりは、以前から親交があるようだった。プロ野球というエリート集団にいる野球選手だ。プロ入り前から様々な大会や代表合宿などで顔を合わせることも多いだろう。
「あいつ元気かね?」「今、何やってる?」「(チームで)集合できないよ」
飾らない、友人同士の会話。家で子どもが友達と電話をしている声が聞こえているような、日常の光景をスマホ越しに見ているような時間だった。
ファンのためにこの時間を作ってくれた。それでも、ファンサービスに徹するだけで、仕方なく無理矢理しているのでは、なんだか申し訳ない。
村上と西浦が心底楽しんでいる様子は、私も楽しかった。
2019年6月8日のスワローズレディースデーは、交流戦の2カード目。オリックスとの対戦だった。オリックスの打撃練習後、ヤクルトのセカンドアップが始まる合間に、村上と西浦が会話をするところを見かけていた私は、その後初めて、にしうらはやとが村上宗隆と同級生だということを知った。
2年目で頭角を現していた村上宗隆。当時まだ、19歳。大きな期待を込める選手であると同時に、まだまだこれから。どうか縮こまらず、のびのび真っ直ぐ、大きくなってほしい。そんな見守る気持ちで、スワローズを明るく照らす希望を見ていた。
それは、どのチームも同じで、オリックスにとっては、この西浦颯大がそんな存在の選手なのだと思うと、胸がしめつけられるようだった。
アオハルを野球に捧げる若い二人。悩みながら、楽しんで野球をしてほしい。同級生、ライバル、友。野球があれば、かけがえない仲間として、支え合える。頑張ってね。頑張れ。そう背中を押してきた。
西浦颯大が、難病治療のため、支配下登録を外れ、育成契約になることが発表された。
今まで野球をできる体を維持してきた、健康な21歳の若者にとって、大きな困難と挫折なのではないかと思う。
治療からの回復もまた、困難を極めるだろう。
生活できることと、プロのレベルの野球をすることでは、その道のりは大きく異なる。実際、医師の見立ても厳しいようだ。
ただ、健康な体に強い心を持つ西浦は、ファンに寄せたメッセージで、力強くこう言いきった。
「絶対に戻ってきます」
野球が好きな、西浦颯大。ファンは、その野球少年が戻ってくる場所をつくり、待つだけだ。
ただ、圧倒的な応援で、西浦颯大を支えることを誓います。
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