おかえり、神宮へ 宮台康平
先発・奥川恭伸は1回表、2アウト2・3塁、2-0から外角高めのストレートを中日の5番DH・平田良介に捉えられ、3ランホームランを浴びる。
2回は三者凡退で抑えたものの、先頭の7番・根尾昂に11球を費やした。2回終了時で42球。球数が多い。そして、2回で打者一巡させてしまった。
3回、淡淡と2アウトを取ったあと、高橋周平、ビシエドと連続安打、続く平田をフォアボールで歩かせ、2アウト満塁となる。
ここでノックアウト。交代となった。
3回、高橋周平、ビシエドはともにライト前ヒットだった。奥川からレンズを外し、肉眼でボールを追う。ライトは、濱田太貴。たいきが打球をさばくその視界に、ブルペンが映った。
誰だ?あれ。
ブルペンキャッチャー・星野雄大に投げたそのボールは、バックネット裏にいる私に向かってくる角度でもあった。
たまたまか見かけた、手元でホップするストレート。誰だ?あれ。
急いで写真を撮り、画面をピンチする。望遠レンズを望遠鏡代わりにする、便利な使い方もあるのだ。
宮台康平。
北海道日本ハムファイターズを昨年オフ自由契約となり、ヤクルトに入ってきた新入団選手だ。
ファイターズからは、育成契約を打診された。しかし宮台は、支配下登録の可能性を信じ、トライアウトに参加する。その結果、ピッチャー強化が課題のヤクルトから支配下契約の話が入り、入団を決めた。ファイターズの他、ソフトバンクからも育成契約の話が来ていたそうだ。見ている人は、見ている。
宮台の名前がコールされる。マスクの中の小さな声援が5000個集まり、歓声になる。
2アウト満塁。初球ボール、続いて空振りとファウルで1-2としたあと、際どい低めの外角が決まらず3-2まで追い込まれた。まず、押し出しは最悪だ。追い込まれた宮台が選んだのは、内角。バッター、6番・京田から空振り三振をもぎ取り、ヤクルトデビューを0回1/3無失点で締めた。
ホッとした宮台を見送ったあとツイッターを確認すると、そこは「おかえり」という言葉であふれていた。
宮台は、東京大学野球部出身。4年前まで、この神宮がホームだったのだ。
東大法学部のインテリが、北海道日本ハムファイターズに7位指名されたのは、2017年ドラフト。NPBでは6人目、13年ぶりの、東大卒プロ野球選手の誕生だった。
文武両道を地で行く宮台は、大学ジャパンの代表に選ばれたことを機に、プロ野球選手を意識し始めた。自分でも、手の届くところまできているのかも知れない。そう思って、神宮で投げ続けた結果、プロの目に留まったのだ。
私は、宮台の1軍デビュー戦を見ている。2018年8月23日木曜日。東京ドームで行われた対ソフトバンク戦で先発した宮台。東京凱旋の意味合いもあっただろう。しかし、勝敗はつかなかった。
宮台の公式戦記録がこの日のみだったことは、ヤクルト移籍が決まったときに知った。プロの世界で生き残るのは、厳しい。
ファイターズのユニフォームを着て3年。結果は出ず、そのユニフォームを脱ぐことになった。
「おかえり、宮台」のその声は、ヤクルトのユニフォームを着てよかったと思ってもらえるよう、神宮に帰ってきたことに意味を持たせたいファンの、優しい視線だ。
おかえり、神宮へ。宮台、これからいくらでも、躍動してくれ!
R3.3.14 sun.
S 5-4 D
明治神宮野球場
追記
宮台と、2020年ドラフト1位の木澤尚文が入団したことで、六大学出身者がそろう「東京六大学コンプリート」を達成した、東京ヤクルトスワローズ。球界初のことだそうだ。
東京大学:宮台康平
慶應義塾大学:木澤尚文
早稲田大学:青木宣親
明治大学:星知弥、吉田大成
法政大学:西浦直亨、中山翔太きんに君
立教大学:松本直樹
こういうメモリアルイヤーこそ、ヤクルト、強いんだよ。
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