杉山晃基の「再試」 ○S×E●op.戦
山田哲人は、もうキャプテンの顔だった。
2021年5月23日水曜日の対DeNA戦は、10-5のダブルスコアで大勝した。
そこまではいいが、この試合、8回までは2失点だった。
9回、マウンドに上がったのは、杉山晃基。2019年ドラフト3位で創価大学から入団した2年目のピッチャーだ。
当時は不動のクローザー・石山泰稚の不調によりクローザーを増やしたいというチーム事情の中、テスト登坂とも言えるこの器用に、杉山は応えることができなかった。
2アウト満塁の状況を作り、2点タイムリーで失点。被安打2、1四球、1死球。仕方のない失点とは言い難い。
0回2/3、2失点。ベンチはここで交代を決断した。交代した坂本光士郎も1失点したが、杉山の広げたピンチを凌いでラスト1アウトを取って試合を終わらせた。同じ9回の失点でも、印象には大きな差があった。
神宮球場は、負けても打ち込まれても、バックヤードからひっそり去ることができない。
内野フェンス沿いに客前を通って帰るこの日の「神宮ロード」。そこには、その杉山と肩を並べて歩く山田哲人がいた。
こうして、打ち込まれたピッチャーに寄り添う姿に、キャプテン山田哲人の、キャプテンという仕事に徹してチームを見渡す度量と覚悟を見た気がして、身震いがした日だった。
杉山の記憶は、ここで止まっている。
同じ大卒で入ったドラフト2位の吉田大喜は、1年目に初勝利を挙げ、ドラフト4位の大西広樹は21年中継ぎとして33試合に登坂した。
あとは、杉山を待つのみ。今日の登坂は、「再試」だった。
5.23と同じ、9回の登板だった。やはり高津臣吾は、杉山の起用をクローザーとして想定しているのか。
しかし、今回とは状況が違った。
先発・梅野雄吾の3回無失点を皮切りに、4回石山泰稚、5回今野龍太、6回清水昇、7回坂本光士郎、8回大下佑馬と、無失点。
ノーヒットノーラン継投で迎えた9回を任されたのが、杉山晃基だった。
失点の前に立ちはだかる「被安打0」の重圧。たかがオープン戦とは言え、これまでの練習試合は、3戦3敗。今日は、練習試合に出場しなかった主力選手も名を連ね、シーズンを見据えたメンバー構成にしている。ここで無安打に抑えられれば、チームの士気は一気に上がる。
楽天の8番・黒川史陽をレフトフライに抑え、1アウト。球場のファンの拍手に、「心なしか、拍手も大きめに聞こえます」と実況ブースも興奮気味で伝える。
しかし、続く9番・小郷裕哉をフォアボールで歩かせてしまう。ここから崩れてしまわないか。嫌な記憶を封印しながら、テレビ画面を見つめる。
1番・小深田大翔への2球目、ストレートを打ったボールが杉山のグラブに当たる。その跳ねたボールを、セカンドの武岡龍世が捕球し、セカンドゴロ。ひやっとした場面も、仲間の好守備に助けられた。杉山も怪我はなさそうだ。2アウト。
あとひとり。あと一人でノーノー。球場の緊張が画面越しに伝わる。
迎えた2番・マーキ(山﨑真彰)は1球目を打ち上げ、センターフライで3アウト。
ヤクルト今年初勝利は、ノーヒットノーランの継投という明るいニュースが付け加えられた。
ホッとした表情でハイタッチをする、杉山。こうして少しずつ、できること、できたことを積み重ねていければいい。そのためには、マウンドに上がるしかない。
今日の再試の結果は、シーズン中に発表される。
合格してるから、絶対大丈夫。すぎちゃん!
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