JIMOTOをめぐった日々

7月14日水曜日

知ってはいたが,「そういえば!」となったのは高速道路の上だった。

スターバックスコーヒー日本上陸25周年第2弾として展開している「47 JIMOTO フラペチーノ®」は,6月30日から8月3日まで(なくなり次第終了)の期間限定商品だ。
土地を代表する食材を使いアレンジされたスタバのフラペチーノは,47都道府県のスタバ店員が考案したご当地フレーバーを,JIMOTO(地元)で味わえる。
「限定」という言葉には,私という人間の判断力を狂わせる強力な力がある。限定される時間への焦り。「もったいない」。つまりは,貧乏性なだけだ。

◇◆◇

夏も本番になる前の3連休の初日。職場で勝手に取った夏休みは,どうしても必要な連休だった。
前日だった都内での予定を,1日先送りにしてこの日に詰め込み,休みをまとめることで,少しは職場に迷惑をかけずに済んだ……と信じたい。
その用事は午前中に滞りなく終え,私が向かったのは空港だった。

松山への旅路は,2019年秋が最後だ。初めて見る松山坊っちゃんスタジアムは,開放感のあるきれいな球場だった。そこで東京ヤクルトスワローズ秋季キャンプを見学して以来の松山遠征に,心は踊っていた。
目的は,フレッシュオールスターゲーム。昨年は,オールスターゲームとともに中止となったこのエキシビションの開催地が松山だと知った日に,絶対行こうと決め,準備してきた。
観戦チケットを何とか確保し,その後,飛行機の予約。ここで,いつもと違う行動をとった。

去る2020年1月31日金曜日。私は,とあるライター講座の打ち上げの席で,講師のえのきどいちろう先生から聞いた,「遠征の楽しみ方」の話を思い出した。

「とても安いセールのときがあるんだよ。1円とかさ」
「ルーレットで行き先が決まるチケットがあって,飛行機を取ってから旅程を決めるんだ」
「ファイターズの試合を見に行くのに,どうやって札幌に行くか,それを考えるのが楽しいんだ」

魅力的な旅の話を,魅力的に話す,魅力的な先生。私も,旅の計画を立てるのが昔から大好きだった。いつかはやってみよう。そう思いながら,遠出がままならない日々を過ごすことになってしまった。

調べてみると,松山行きのLCCチケットは,成田発着だった。羽田の方が距離も高速料金も近いが,成田も行けない距離ではない。いつも車で移動する私には、なんてことはなかった。
そして、サンキュッパ!狭いだろうし、荷物や食事すべてが課金。でも、セール初日にチケット取りをする自分の人生が、愛おしかった。先生、楽しい!

◇◆◇

首都高速から、湾岸線、東関東自動車道と、成田空港へ向かう。夕方のフライトまでには、かなりの余裕はあった。トイレタイムを取ろうと、サービスエリアを探す。しばらく走り続けて見えてきたのは、酒々井サービスエリアだった。
平日にもかかわらず、たくさんの車が止まっている。ぽつんと一つ空いたスペースに駐車すると、その目の前にはスターバックスがあった。

「ご当地フラペチーノ!」。せっかくだから、ここで堪能しよう。

「いらっしゃいませ」
「ご当地……JIMOTO……」
「はい、みたらしですね?トッピングはいたしますか?」
「チョコチップをプラスで。あと、はちみつをかけてもらっていいですか?」
「上からかけていいですか?」
「はい、お願いします」

特別仕様の「千葉なごみみたらしコーヒークリームフラペチーノ®」を、ゆっくり飲む。贅沢な時間の使い方は、自身を尊大にさせるから気をつけなければならない。

店を出るとき、店員に声をかけられた。
「ありがとうございました。いつもかけるんですか?はちみつ」
「はい。蜂蜜の甘さが好きなんです」
「初めてです。素敵なトッピングですね」
「はい。ありがとうございます」

いい、旅の始まりになった。

7月15日木曜日

松山空港に着いたころには、もう暗闇だった。道後温泉駅行きのリムジンバスは、私で満席になった。
ボーッと車窓からの景色を眺める。早く温泉につかりたい。夜の街中を走っていると、スターバックスの路面店が出てきた。
スタバだ。あぁ。愛媛のJIMOTOフラペチーノは何だろう。明日、レンタカーを借りてから、寄ってみよう。

そうして、12時に予約していた松山市駅近くのレンタカーを借りた足で、昨日見たスタバに向かった。
路面電車は、初めて乗った。乗客は老若男女。中学生4人が持っているファイルは、社会見学のレポートのようだった。いい風景だった。

レンタカーの松山坊っちゃんスタジアムの駐車場は15時開放。まだまだ時間があった。昼食を摂っていない私は、フラペチーノと一緒にパニーニを頼んだ。少し、長居できる。

「あの、ご当地の……JIMOTOの……」
「はい。かしこまりました」
「チョコチップいれてください。あと、はちみつを上から」
「はい。何周かけますか?」
「……5周で」

チョコチップとはちみつを先回りで言ったら、今度は蜂蜜何周か。 注文の仕方もバリエーションに厚みが出るな。

「愛媛すごいけん!キウイフルーツフラペチーノ®」は、トーストされた温かいパニーニと一緒に出てきた。

さぁ、そろそろ野球場に行こう。

7月17日土曜日

道後温泉駅から松山空港までのリムジンバスに乗るには、7時からの朝食を摂る時間がなかった。ホテルに「朝食抜きで」とお願いすると、500円の返金があった。

帰りの座席は、非常口近くだった。少し足元が広かった。デブにはうってつけだ。次回からも、非常口でいい。避難のお手伝いなど、いくらでもする。

成田空港には、12時前に着いた。第3ターミナルからターミナル連絡バスに乗り、第1ターミナルまで移動する。そこから少しある駐車場まで歩くうちに、汗がどんどん噴き出てくる。
私が松山にいる間に、梅雨が明けていた。

帰り道は、快晴の空の元ドライブを楽しもうと、渋滞のなさそうな圏央道経由で帰ってきた。追抜車線を悠々と走るとすぐに一車線になる。気を抜けない走行は、高速道路にちょうどいい。

そろそろ、おなかが空いてきた。次のサービスエリアは守谷だ。有名な、大きなサービスエリアだ。立ち寄るのは10年以上振りだろう。何か食べて帰ろう。

あとは帰宅だけというときに、出会ってしまったのだ。守谷SAのスターバックス。

「ご当地の……JIMOTOの……」
「はい。かしこまりました」
「チョコチッププラスで、はちみつ5周かけてください」
「はい。かしこまりました」

「茨城メロンいがっぺクリーミーフラペチーノ®」

こんな旅の終わりもいい。

いいなと思ったら応援しよう!