なるき なるき ひろき ●S×T○1回戦
寺島成輝が止まらない。
最近は、「中継ぎ」を「セットアッパー」と言い、「抑え」を「クローザー」と言う。「先発」は……先発か。だが、ファイターズは「ショートスターター」?
野球はどんどん、進化していく。
進化の過程で、セットアッパーの新たな評価基準、「ホールドポイント」も生まれた。そうでなければ、やってられない。しっかり仕事をしているのに、「勝ち投手」か「セーブ」か、それだけでは不公平だ。
昭和の時代のイメージは、先発は7回まで、抑えは8回、9回。それがさらに細分化され、「中継ぎ」ができ、先発は勝ち投手の権利が得られる5回、そこから6、7、8回と中継ぎが投げ、9回は抑えというパターンで常態化している。開幕3戦目、山田大樹の7回という投球イニングを「長く投げた」と感じてしまうほどだ。
2019年8月21日。先発・石川雅規は5回裏、あと1アウトをなかなか取れず、中継ぎ・平井諒に交代する。投じた初球を内野ゴロで抑え、3アウトチェンジ。たった1球の燕護だった。1球のために、肩を作り、マウンドに上がり、緊張のピークを乗り越える。そんなこともあるのが中継ぎなのだ。石川は、その1球が遠かった。
今日の神宮、先発・イノーアの初回3点献上で、苦しい試合展開になった。6回0/3で中澤雅人にマウンドを譲り、降板。中澤は、ノーアウト1・2塁という苦しい状況を引き継ぎ、1失点。4点ビハインドで6回を終了した。
そして、7回に登板した中継ぎが、寺島だった。一昨日の6月21日、寺島は抑えでマウンドに上がっている。9回、打者4人に対し18球を投げ、1安打無失点。なかなかストライクを取ってもらえなかったが、147km/hの速球が光る、ナイスピッチングだった。
そして、今日の中継ぎ登板。中1日、しかも7回・8回の「回跨ぎ」登板だ。かつて「ロングリリーフ」と言われた、抑えの「回跨ぎ」投球。現代ではまず見ない光景に、息をのんでテレビ画面を見つめる。
あの日、1球で降板した平井諒も、次の回は投げなかった。18球で中1日登坂というのは、肩肘を休めるのに問題ない時間なのか。この状況での回跨ぎは、なるきの肩肘に影響はないのか。そもそも回跨ぎなんてしていいものなのか。
素人には分からない現場の判断に、素人が振り回される。
そんな心配をよそに、なるきは、一昨日のピッチングそのままに、内角低めに速球を決めていく。コントロールがいい。勢いのある、攻めのピッチングだ。見ていて爽快。気持ちがいい。
結果、2回1安打無失点、8回は三者凡退で阪神打線を抑え込んだ。打者に負けず圧倒する、終始強気のピッチングだった。
その後、9回を長谷川宙輝が引き継ぎ、被安打1無失点で終えた。2020初陣の6月19日に中継ぎで登板した長谷川は、中3日、0回2/3、1失点で途中降板している。
開幕初戦悔しい思いをした21歳の同級生コンビは、中継ぎと抑えの役割を交換して、今日も神宮で投げ切った。
私は、なるきの元気がないことが、ずっと気になっていた。なるきは21歳だ。まだ若い。だけど、その若さをグラウンドで感じられない。笑顔がない。緊張しているわけでもない。ただ、うまくまとめようとして小さくなっている、そんな印象だった。
悔しい思いも、落ち込むことも、叱られて泣きたくなることだってあるだろう。でもそれはすべて、若いうちにしかできないことだ。
せっかく野球選手になったのだから、なんでも挑戦して、たくさん失敗して、野球を存分に楽しんでほしいのだ。
野球選手であることを存分に楽しんで、臆することなくガンガン投げてほしい。今季のその思い切りのいい攻めのピッチングをたくさん見たい。神宮で躍動するなるきを見たい!
そんな、希望のあるマウンドを、今日は見た。
R2.6.23 tue.
S 1-4 T
明治神宮野球場
まけほ