山田哲人の「派手さのない守備」

山田哲人には、目標がある──

山田哲人は、一流の野球選手だ。
山田を一流たらしめるものが、打率3割・30本塁打・30盗塁の「トリプルスリー」。

打率を稼ぐ「安定」、長打を生む「強靭」、得点を狙う「俊敏」。バランス、タフ、ムーブ。
この3つが共存し、それを三度も達成する、スーパーマンだ。

ミスタートリプルスリーと言えば、山田哲人。
そんな、“代名詞”を持てる野球選手は数少ない。しかも山田は、それを20代でやり遂げるという偉業を達成している。

そこに、昨季から務めたキャプテンとしてのリーダーシップが加わり、チームに6年ぶりの優勝と20年ぶりの日本一をもたらした。

こどもの憧れ。ファンの希望。ヤクルトの未来。

それが、山田哲人だ。

自身の記録だけでなく、チームを勝ちに導くまでのキャリアを積む山田は、30歳にして野球にまつわるすべてを掌握しているように見える。

そんな山田が、未だ到達していない目標点とは。

ゴールデングラブ賞(GG賞)とは、一定の基準を満たした選手の中から、5年以上現場経験のある番記者が投票で選ぶ、謂わば“ポジションNo.1”を決める賞だ。*1
スーパーマンの山田哲人は、この「守備の最高峰」という栄誉を手にしたことがない。
大きな壁として立ちはだかるのはもちろん、広島・菊池涼介だ。

山田は今季の目標に「GG賞」を掲げていた。*2 バッティング大好き哲人くんも、バッティングだけでは生き残れない。
レギュラー獲得のために、守備というピースを埋めなければならない。
そんな若手時代にセカンド・山田を育てたのは、三木肇コーチ(現・東北楽天ゴールデンイーグルス二軍監督)だった。

山田哲人の守備には、派手さがない。
体の正面でボールをキャッチし、ファーストにストライクを投げる。
グラブトスも危なげない。
この、再現性のある確実な守備は、三木肇が徹底的に鍛え上げたという土台がある。

そして、山田は更なる高みを目指すため、2021年シーズンからグラブのサイズを変えた。*3

これだけのキャリアがある選手が、一つの目標に向かって、新たなことに挑戦する。
上手くいっている現状に変化を与えることには、勇気が必要だ。
でも、その勇気をすぐに実行に移せる強さがあるのもまた、野球選手の特性だろう。
鍛え上げているのは、肉体だけではない。

2022年11月14日、GG賞の受賞リストに山田哲人の名前はなかった。投票は、思いの外伸びていない。*4

成績で振り返ると、山田が受賞してもおかしくない。*5
そこに、この選考の批判が存在する。
しかし、成績で決めるのなら投票は不要だ。
そこに“現場感”が入るのが「GG」。そこに、山田哲人の守備はまたしても届かなかった。

派手さはなくとも、あの守備が上手いことは、数字が証明した。
だが、山田哲人の目標は、年を越すことが決まってしまった。
まぁ、いい。いつかこの魅力を分からせてやる。
そうして唇を噛み締める、今日はそんな、野球のないとある日だった。

*1


*2


*3


*4


*5

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