It's My Life!マイライフきんにくん!
6月9日。神宮レディースデー。前日、ボディーペイントで左うでに書いてもらったYSマークはまだ消えていない。泡で洗ったから。
デーゲームの神宮はめずらしい。お天道様を拝める間の神宮は学生のものだ。遅刻しないよう、日曜日の朝早くから家を出る。昨日とは違う雨模様。傘のオブジェがお似合いだから、いいんじゃないかしら。レディースデーのフォトスポットはたくさんある。レディースユニフォームの交換もしなければならない。試合開始まで、あっという間に時間が経つ。
開場と同時に入場し、カメラ女子席へ。
突然、右から拍手の音が聞こえた。その方向を見ても、イマイチ何が起こっているのか分からない。
その瞬間、声が聞こえる。
「きんにくん!」「中山!」「おめでとう!」
それは、プロ初昇格した2018年ドラフト2位・中山翔太が球場に入ってきた瞬間だった。
▲拍手に迎えられ、はにかむ笑顔のきんにくん
こんな光景、初めて見た。初昇格のルーキーが「頑張れ!」と声をかけられることは、これまでもあっただろう。しかし、振り向くほどの拍手で迎えられることはあっただろうか。驚いた。きんにくんの人気に。ただ、きんにくんという大型ルーキーは、大型連敗で優勝への道に暗い影を落としたヤクルトにとって明るい未来だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
中山翔太。法政大学出身。というより、履正社出身という経歴にヤクルトファンは盛り上がった。山田哲人、寺島成輝、宮本丈に次いで4人目の履正社ボーイの入団により、履正社はヤクルトの附属高校となり、夏の甲子園、履正社初優勝にヤクルトファンは狂喜乱舞した。謎理論、謎の現象だ。笑
▲勝手が分からず緊張しているアップきんにくん
趣味は、筋トレ。それを知ったヤクルトの元祖筋肉キャラ・雄平が「きんにくキャラは(きんにくんに)譲って、インテリキャラになる」と宣言し、ファンをざわつかせた。
新入団発表会では自慢の筋肉を披露し、あだ名は「“きんにくん”で」。屈託のない筋肉愛。また一癖ある子が入団してきたと、ヤクルトファンは楽しかったのだ。
▲元祖きんにくん・雄平が気さくに話しかける
きんにくんのプロ初打席は代打で巡ってきた。その登場曲は、
『It's My Life』ボン・ジョヴィ
私は本家・なかやまきんに君の前に、ファイターズ・大田泰示を思い起こしていた。札幌ドームで大田泰示の「It's My Life」を幾度となく聞いてきた私は、大田泰示と同じ?なんで?という驚きでいっぱいだった次の瞬間、気づく。
ああそうだ。大田泰示も筋肉キャラだった。同じ筋肉キャラでも、ところ変わればこうも違うものなのか。そう思ったことは内緒にしておく。
筋肉=きんに君=It's My Life
両者ともわかりやすい。サビで「やーっ!」と叫んでバットを叩きつければ完璧だ。
ちなみに、なかやまきんに君の本名は『中山翔二』。ヤクルトのきんにくんは、中山翔太。一字違い。徹底した筋肉キャラにただ感動した。
▲きんにくん初打席!
きんにくんの一軍初昇格。そしてなにより、見たこともない神宮の光景に立ち会えたよろこびをかみしめ、満たされた感動を胸に観戦した。その日、代打で途中出場したきんにくんの『初打席初安打初打点』の活躍で、ヤクルトは勝利した。
▲勝利のヒップアタック
この1週間後。6月16日に、きんにくんはメットライフドームで初ホームランを打つ。フジテレビoneの副音声で解説していた田中浩康が、
「いやー中山くんおめでとう!」
と祝福していた。「いやー」という感嘆詞つきの、スワローズの先輩の言葉。浩康のワクワク感が伝わってくるようだった。もうおかしくてたまらない。きんにくんにワクワクされられ魅了されたヤクルトファンが、お見事な本塁弾に感心し、歓喜していた。うれしかった。きんにくんは、ファンをワクワクさせる、そういう魅力ある野球選手なのだ。
背番号8の系譜は、大杉勝男や広沢克己に代表される「強打者」。あの筋肉から放たれるボールは、いったいどこまで飛んでいくのだろう。私は内野民として、その打球の行方を追っていく。そのとき私の顔は、上がっている。
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