ずっと見ていたい荒木貴裕
2020年2月7日金曜日午後2時。曇り時々弱い雨。浦添市民球場で内野特守が始まった。野手は東京ヤクルトスワローズ・山田哲人と荒木貴裕。ノッカーは森岡良介。新監督・高津臣吾も見守る中、セカンドの位置から特守はスタートした。
交互に、二遊間に飛んでくるボールの正面に回って取り、セカンドに送球する。
捕球、送球。ふたりでひたすら反復する。「ハイ!」の声と同時に、ノッカー・モリスケが打つ。捕球、送球。繰り返し。
てつとが捕逸!グラブがボールをはじく。スタンドから「あーっ!」と一斉に声が上がる。
失敗したら「もういっちょ!」もう1球、おまけのノックだ。外野応燕団も見守る中、ノックは続く。
貴裕が一塁に移動する。いつの間にか、ファーストミットに着替えている。雨が少し強くなる。スタンドの観客がバックネット裏の突き出した屋根の下へ避難する。私はそのまま雨に打たれながらカメラレンズにタオルを巻き、ファインダー越しに貴裕を追う。
しばらくして、てつとはセカンドのまま、貴裕はショートに移動する。雨は少し、弱まった。
そして貴裕は、サードへ。
一塁へ送球したところで、私はハッとする。
そうだった。私は、貴裕のこの完璧なスローイングが好きだった。「野球の基本はキャッチボール」と言うが、どこに飛んでも、貴裕が取って投げれば、必ずストライクだ。ボールは勢いよく、力強い。構えたグラブに確実に届く、気持ちのいいこのスローイングが、私は大好きなのだ。
ブレイクタイム。霧雨が粒になりかけるような雨が、降ったりやんだりしている。貴裕は、練習用の白いYS帽を二度、勢いよく振り降ろす。飛んだ水しぶきは雨のせいか、汗なのか。こんな、ほんの少しの水分の重さでも、今の貴裕にとっては邪魔だろう。少しでも軽くしてやりたいと、つい思う。膝に手をついたまま、動けない。2回の水分補給をはさみ、1時間に及んだ特守は、午後3時に終了した。
野球選手は30歳を越えたら、ベテランと呼ばれるのだろうか。貴裕は今、代打と守備固めの途中出場が多い。この胸のすくような貴裕のストライクを、私は久しく見ていないような気がする。ただ私は、この痛快で爽快な荒木貴裕の守備をずっと見ていたいのだ。