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ライアンの誠実

「(ファン感)来ないっしょ」

スワローズファン感謝DAY前夜、スワローズのお店で出会った、スワローズファンに「明日来るかね?」と問われたときの、私の答えだ。

国内FA権を獲得したのは、山田哲人、石山泰稚、そして、小川泰弘の3人。3人とも、ヤクルトには欠かせない人になっている今、その去就は注目を集めた。

他球団が獲得に動くのは、戦力としての実績だ。チームに足りないピースを埋めるだけでなく、即戦力として勝利を計算できるこの3人は、どのチームであっても欲しい人材だろう。

ただ、ファンが選手を失うということは、戦力を失うことを指さない。
いや、勝つためにその人が必要なことはもちろんだ。しかし、その人がいないチームで勝ったとして、私はその勝利を喜ぶことができるか。

ともに勝利の歓喜を分かち合いたい人がいなくなること。どうしても想像できない。
この3人は、そんな欠かせない人なのだ。

FA 宣言は、踏み絵の様相を呈する。FA宣言しなければ、それは「=(イコール)球団愛」として総括され、その球団のファンから崇められる。
FA宣言して残留した場合も、その評価はきっと変わらないだろう。

FA宣言して移籍したとき、ファンは戸惑う。
今までいた人が、もういない。その環境の変化をどう受け入れるか。
その人が、自分のチームとは違うユニフォームを着ている。その姿を、どう受け容れるか。

受容の過程にかかるストレスを、「FA宣言=背反行為」と認定することで解消しようとするのであれば、それは勝手な自己都合だ。
しかしそれが、FA宣言した選手へ「裏切り者」のレッテルを貼ることでまかり通っている現状がある。

私は、それがライアンであることが、いやだ。
ライアンがいることで、私はヤクルトファンとして“いい思い”をしてきた。
勝ちをつけてもらったことじゃない。もちろん、勝ちを分かち合ったことはいい思い出だ。

2015年。東京ヤクルトスワローズは、本拠地神宮球場で優勝した。雄平のサヨナラタイムリー。首位打者・川端慎吾、打点王・畠山和洋、ホームラン王と333・山田哲人。ではなく雄平が決めた優勝が、尊くて泣いた。

そして、前代未聞の球場ビールかけ。ファンと一緒に盛り上がろうとその姿を見せてくれるチームの心がうれしかった。

しかし、その輪の中に、石山泰稚の姿がなかった。石山は、翌日のカープ戦に備え、広島に前乗りしていたのだ。
全員で勝ち取った優勝の輪の中に、ともに戦った泰稚がいない。悔しいことだった。

そんな中、「14 ISHIYAMA」のユニフォームが神宮にいた。目を凝らすとそれは、泰稚のユニフォームを着ているライアンだった。

年齢は2歳年上だが、2012年ドラフト同期。何も感じないはずはない。ライアンは、そういうことをする人だった。

その人を、失おうとしている。失うものは、戦力だけじゃない。

◇◆◇◆◇

ライアンがもし、FA移籍をしたら、私がライアンの赤いピンストライプを見たのは、11月10日最終戦セレモニーとなっていたところだった。

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どんな言葉を掛けられるか分からない。いや、言葉など掛けられないかも知れない。
そんなFA宣言後の神宮に、ライアンは来た。ファン感謝DAYという、ファンに感謝を送る日に、だ。

午前の部終了時の、中村悠平選手会長のごあいさつ。ムーチョのむちゃぶりで、新キャプテン・山田哲人があいさつした。

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むちゃぶりにもしっかり応えられるてっちゃんは、キャプテンの顔になっていた。そして、「次誰にしよっかな~。ライアン!」
むちゃぶりからの、むちゃぶり。指名されたライアンは、「お騒がせしています。自分の人生の分岐点なので、しっかり悩もうと思います。結果はまたご報告します」と話した。

誠実な青年の姿がそこにはあった。礼を尽くし、ファンに対して言葉を飾らず語ったラ誠実なライアンに、神宮は思わず拍手を送っていた。

一本締めは、ライアン。「よぉ~お」「パン!」

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30歳の若者が必死に人生の分岐点を考えているのだ。私がライアンを失うことの最大のストレスより、ライアンの野球人生が最優先だ。たとえ、私が泣こうとも、ライアンが笑ってくれれば、それでいい。

もちろん、できたら、そのユニフォームのままでいてくれたのなら、なおいいのだが。それは、せめてものストレス回避のために考えないでおくことにする。

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