恩人 冨田英樹さんのラストフライトに同乗[前編]
皆さまこんにちは!ニコンを使い続けて39年!!ミスター600mm!!!
航空写真家の深澤明です。
いよいよ年の瀬も迫ってまいりました。
2024年は皆さまにとってどんな1年だったでしょうか。
さて、日本の季節はまだ秋の頃でした。
2024年10月24日、ニュージーランド航空の成田 - オークランドNZ90便。
ワタクシの航空写真家人生で欠かすことのできない大恩人であります、冨田英樹さんのラストフライトに同乗、そのフライトの様子を余すことなく記録させていただきました。
まずは冨田さんのご経歴を記しておきます。
ワタクシがニコンのカメラを使い始めたのと同じ39年前の1985年8月26日、冨田さんはニュージーランド航空に入社されています。途中1991年〜1994年の3年間ルフトハンザ航空で乗務されていますが、その後再びニュージランド航空に復帰されています。
ところが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、2020年12月にニュージランド航空から解雇されてしまいます。コロナ禍でも日本のエアラインは雇用を維持する方向でいろいろな施策を行っていましたが、やはり海外のエアラインはサクッと解雇してしまうんだな、という印象をワタクシが持ったのは事実です。
厳しい現実です。
「まだまだ飛べる」
とワタクシは勝手に思っていましたし
「いつか冨田さんの経験や人柄をニュージーランド航空が必要とするのではないですか?」
と常々メッセージしていました。
やがて、、、思いの外早く、、、
2021年3月、冨田さんはニュージーランド航空へ戻りました。
この報を受けたときは心から嬉しかったです。
あれから3年半、、、、、
「39年前に入社した8月26日の今日、会社に正式に退職届を出してきました」
とその日のうちにメッセージをいただきました。
そこで、ラストフライトが10月末になるかも、ということで
「是非深澤さんにはその便に乗って欲しいんです」
と熱いお気持ちをいただきました。
そして迎えた2024年10月24日。
ニュージーランドのオークランドに1泊の弾丸なら行ける状況となり、冨田さんのラストフライトに同乗することができたのです。
冨田さんのお人柄で日頃から各方面のスタッフと良好なコミュニケーションが行われていたことを想像するに難くないシーンが成田空港出発前から繰り広げられていました。
チェックインカウンターのスタッフやケータリングの外部スタッフも冨田さんの退職を笑顔で見送ってくれています。
機内に入ると、出発準備に向けて客室乗務員の皆さんは大忙し。
冨田さんも花束や荷物を置いて、早速準備に取り掛かります。
「まずは深澤さんとコクピットクルーにご紹介します」
と冨田さん。
コクピットクルーの3名もとてもにこやかに迎えてくれて大感激でした。
そこで冨田さんとの記念撮影を提案すると、冨田さんの右席へと座らせてくれて素敵な笑顔でのショットを撮ることができました。
機材はボーイング787-9型機でしたが、普段は日本路線に投入されていない新装レイアウトの787-9 V2型機でした。
フルフラットベッドになる「ビジネス・プレミア」が27席。
シートピッチ104-106cmの「プレミアム・エコノミー」が33席。
シートピッチ78-83cmの「エコノミー」が215席で、37-44列目のABCと36-40列目のHJKはエコノミー「スカイカウチ」となっています。
そしてついにラストフライトの搭乗開始を迎えました。
冨田さんは自ら2Lドアの内側に立ち、搭乗者をお一人おひとり出迎えました。
ここで!
日本のエアラインなどでは普通「L2ドア」と表現されますが、ニュージランド航空のドアには「2L」と書かれています。
当然のことながら、機首に近い前のドアには「1L」「1R」と書かれています。
冨田さんはこのフライトでも「INFLIGHT SERVICE MANAGER」として乗務されています。つまり、客室の責任者です。
他の客室乗務員との連携やコミュニケーションも素晴らしく、つつがなく機内サービスが行われていきます。
しかしながら、ギャレーなどの作業風景を間近で撮影させていただいている立場として、ここは本音を書いておかねばなりません。
機内サービスの現場はまさに戦場であり、バッタバタです。
手際が良い上に確認事項も多い中で声をかけながら、一つひとつ機内サービスを実施してゆくのは、かなりの集中力や体力、気力が必要です。
プロの撮影の現場もまったく同じだなと思いました。
なぜならば、外からは華やかに見えたりクールに見えることでも、実はとても泥臭くしんどいことの積み重ねでもあるわけで。
それはプロの世界はある程度どこの世界も共通点としてあるのだろうなと思うのです。
そういうのもすべてさらけ出して見せてくれたのが冨田さんなのです。
機内食を準備している姿やドリンクなどの機内サービスシーンも、ギャレーやキャビン内で他の搭乗者の迷惑にならない範囲でできるだけ記録しておこうと務めました。
決して明るくない機内照明と目まぐるしく展開されるサービスシーンの連続。
正直に言うと、取材のフライトレポートではここまでのベタ付き撮影は不可能です。
表現が正しいかわかりませんが、1,000本ノックのような感じで、こちらも息つく暇もありません。
ただし、忘れてはいけないのは、息つく暇もないのは客室乗務員の皆さんであり、ワタクシはあくまでも外野なのです。
当事者にしかわからない大変さやキツさもあると思います。
でもその中でふとした搭乗者とのやりとりで笑顔になったり思い出に残る会話になったり、そういったドラマが生まれてくるものも、きっとあるのだろうだろうとも思います。
無事に27名の「ビジネス・プレミア」の搭乗者の胃袋の心を満たして、ホッとひと息。
ジャンプシートに腰掛けて、サラダなどをちょっと食べる冨田さん。
「慌ただしいでしょう〜〜??」と笑いながらもちょっとホッとした様子で会話などを楽しみました。
すると客室乗務員の方から冨田さんへ「2L」のギャレーへ来てください!の連絡が!!
そこには1回目の機内サービスを終えてひと段落を終えた客室乗務員の皆さんが集っているではありませんか。しかもケーキまで用意されております。
すかさず『今日の主役です』のタスキを掛けられ、ケーキを持ちながらくす玉を割るように求められる冨田さん。
照れながらも嬉しそうな笑顔を見せてくれました。
今回の冨田さんのラストフライトと同便に乗務したいと志願された客室乗務員の「ヨシさん」からケーキを口の中へ突っ込まれて、それはそれで嬉しそう。
やがて冨田さんの目には涙が浮かんでおりました。
こんな感動的なシーンを目の当たりにできるだけでなく、記録の残せて航空写真家冥利に尽きます。
心あたたまるシーンのあとは、機内の照明も落とされて787-9型機の静かなエンジンサウンドだけが耳に届いてきます。
ワタクシも少し眠らせていただきました。いろいろな意味で貴重な経験ばかりのフライトとなっています。
(※ クルーの皆さんからの掲載許可は取得済です)
[後編も楽しみにしていただけると幸いです!!]