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Dr.コトーにおやすみ

みなさま、こんにちは。年々髪のうねりがひどくなってきてライオン丸(死語)みたいになっている、じじょうくみこでございます。

さて、本日は前回の「Dr.コトーにも事情がある」の後編をお送りします。

前回は離島の医療体制についてお話しいたしましたが、わたくしシマ島に引っ越して早々、島の診療所に行ってまいりました。というのも、ある日突然、息ができなくなってしまったからであります。

新居での暮らしがようやく形になってきたころ、胸になんとなく息苦しさを感じるようになりました。なんというか息がカラダの中に入っていかない感じで、心臓がときおり痛くなるのです。寝込むほどではないけれど、カラダがとにかくだるくてしょうがない。

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本当につらかったのん(写真はイメージです)


健診では特に何もなかったし、脈をとる限り不整脈も出ていない様子なのに、これはいったいどうしたことか。新生活が始まったばかりなのになあ、どうにか収まらないかなあ、と思って昼寝をしたりお酒を控えたりとあれこれしてみるものの、息苦しさはいっこうに収まらず。

とうとうある夜、ザビ男がソファで休んでいるわたしに「調子悪いの?」と聞いてきたのでありました。

「なんか息が苦しくてつらいんだよね」
「わかった。いまから診療所に行こう」
「え? いやいや、横になっていれば大丈夫だよ? それにいま夜11時だよ?」
「心臓はヤバいだろう。診てもらって大丈夫だってわかれば、それでいいんだから」

どうやら総合病院がない離島の住民には「大事に至る前に診てもらう」という姿勢が徹底しているようで、ザビ男はおもむろに携帯を取り出し、「リカちゃん? 20分後に行っていい?」と、まるでスナックに予約を入れるような気安さで診療所に連絡を入れたのでありました。


左4c

真夜中の急展開


ザビ男の車で移動すること5分。初めて訪れた診療所は、想像していたよりもずっと立派な施設でありました。後で知ったのですが、ベッドが20以上あると病院、19以下だと診療所と呼ばれるそうで、シマ島の診療所も入院可能な医療設備らしい。Dr.コトーみたいな小さな診療所をイメージしていました、ごめんなさい。

自動ドアを開け、ひと気のない薄暗いエントランスを入ると、看護師さんらしき女性が奥から現れました。なるほど、あなたがリカちゃん。ザビ男とリカちゃんは仲良しのようで、ひとしきり雑談するのを椅子に座ってぼんやり聞いていると、奥からもうひとり、男性が歩いてくるのが見えました。


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出た、Dr.コトーーー!


深夜だということを忘れそうなくらい颯爽と聴診器をぶら下げて現れたのは、吉岡秀隆とはかなりイメージの違う、がっちりしたワイルドな風貌の先生でありました。


あらやだ
悪くない
(コラ)


島の診療所はお医者さんがしょっちゅう入れ替わるかわりに、こんな風に24時間365日の診療体制で夜でも急患対応してくれるそうですが、当時のわたしは息も絶え絶えでしたので早速診察してもらうことに。

「こちらへ寝てください。お腹を出して」



やだもう
急がないで
(違)


妙に滑舌のいいDr.コトーは、診療所に響き渡るような大きな声でテキパキと診察を進めていきます。


「見た限り異常はないようですが、過換気の症状はあるようですね。呼吸が浅い。何か病気は?」
「月経過多で一度大量に出血したので、念のため島に来る直前に総合病院の婦人科に行きました。いま検査結果待ちです。貧血になると息苦しくなると聞いたことがあるのですが、そのせいでしょうか…?」
「血液検査はしていますか?」
「数ヶ月前にしたきりです」
「大量出血の可能性がある人が島にいてはいけませんよ」
「えっ」
「島では輸血ができないので、万が一大量に出血した場合、命に関わります」
「ええっ」
「ここでいま血液検査することはできますが、夜に検査をすると自動的にヘリで本土に救急搬送されることになるんですが、どうされますか」
「ええええええええっっっっ」


まさかの展開Σ(゚д゚;)


あまりのことで「いやいやいや、これは更年期のアレがナニであわわわ」とパニックになると、Dr.コトーは滑舌のいい美声でひと言ひと言う言葉を切りながら、

「どうでしょう、自力で移動できるようなら明日1番の便で本土に行かれては? 検査中ならやはり、かかりつけの病院で診察を受けたほうがいいと思います。僕から先生宛に手紙を書いておきますので、明朝取りに来てください。廊下にいるのはご家族ですか? お話してきますね」

そう言ってコトーは廊下で待っていたザビ男のもとへ行き、診察室に丸聞こえな大声で経緯を説明されたのですが、「診察室の話が全部聞こえてたんだけど、先生が熱心だったから黙って聞いといた」とザビ男談。

そんなこんなで急転直下で上京するハメになり、翌朝診療所に行くと受付にはコトー直筆の分厚い手紙が置かれてありました。コト―、あのあと書いてくれたのか。さらに船に乗る直前には先生自身から携帯に電話があり、やっぱり大きな声で

「むこうの病院に着いたらすぐ診てもらえるように、僕の方から連絡しておきました。着いたら病院に電話して、まっすぐ受付に行ってくださいね。どうぞ、お大事に」

コトーーお!!!!!(:_;)

ひとりで心細かったのもありますが、東京では病院でこんな手厚いケアを受けたことがなかったので、なんかもう泣きそう。それだけに上京して病院で診察してもらったとき、先生がコトーの手紙に目を通しながら

「島での生活に支障がないように治してくれって言われても、それができたら苦労しないんだよねえ~」

と、吐き捨てるように手紙を机の上に放り投げるのを見て、激しい怒りを抑えるのに苦労いたしました。


ぬおおおおおおおおお
コトーーーーおおおおおおおおおおお!!!!( ;∀;)


カモメ

カモメ

カモメ


その後。
精密検査の結果、貧血は多少出ていたものの特に異常はありませんでした。どうやらわたし、過呼吸の発作が出ていたみたいです。ともかく大きな問題がなく島に帰れて心底ホッといたしましたが、それがわかったころには既にあのとき診てくれた大声コトーは島での赴任を終え、気づけば診療所から名前が消えておりました。

直接お礼は言えなかったけれど、せめて今夜はどこかで大声で話さないですむように、ゆっくり休んでくれてますようにと、祈るばかりのじじょうくみこであります。

それでは、また明日。

Text by じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎

*この記事はウェブマガジン「どうする?over40」で2015年に掲載した連載の内容を一部アレンジして再掲載したものです。現在、後日談の「崖のところで待ってます。」という連載を月に1回書いています。よろしかったらそちらもどうぞ。

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じじょうくみこ
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