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祝宴狂想曲(5)バケモノの子は、ブレイブハートで。
ついに、わが故郷で食事会の日がやってまいりました。
司会進行はどうするのか問題(食事会なのに!)、ドレスは着るのか着ないのか問題(10人しか来ないのに!)、引き出物はつけるのかつけないのか問題(会費制なのに!)、そもそも姉きくえが一番ふりふりドレス着たいんじゃないか問題(諸悪の根源)など、普通の食事会なら発生しないはずの諸問題が浮上しては炎上し、当日を迎える前からすでに疲労困憊。
ですので後から現地入りするはずだったザビ男から、まさかの天候急変で「船が欠航で島から出られなくなった」と連絡が来たときは
天の恵み………
と神に心から感謝したい気持ちになりました。
ちゅーうーし、ちゅーうーし
そして数時間後にザビ男から「飛行機に滑り込んだ! ギリギリ間に合いそう」という悲報が届き、一瞬浮き上がったぶんダメージ倍増したじじょうくみこでございます。
せめて外撮影がなくなりますように…というわたしの切なる願いもむなしく、当日は朝から爽やかな秋晴れ。
貸衣装屋の前で待っていたサダカメくんの「最高のロケ日和でよかったですねえ~」という屈託のない笑顔に軽く殺意を覚えつつ、その日は早朝からヘアメイクを済ませて衣装を着こみ、朝のうちにプロカメラマンによる写真撮影、終わったら衣装を着たままホテルへ移動してランチ食事会…というスケジュールになっておりました。
貸衣装屋のドアを開けると、内海桂子師匠、泉ピン子、山村紅葉(あくまでイメージです)の熟女3人が相変わらずのド迫力でザビ男とわたしを待ち構えておりました。「さささ、こちらへ座って」と鏡の前に座らせられ、ザビ男はタキシードを選びに奥へ連行。
東京でのパーディではあれほどタキシードを嫌がったザビ男ですが、今回はまな板の上の鯉状態でハイハイと素直に従っているのが不思議です。(熟女パワーか?)
椅子に座ると、ピン子がおもむろに道具を取り出し、あれこれいじり始めました。あ、ピン子がヘアメイクさんなのかーと寝ぼけた頭でしばらく見つめていたのですが、あれそういえばドレスのことで頭がいっぱいだったけど、よく考えたらヘアもメイクも打ち合わせしてないんじゃないか? と気づいたときには時すでに遅し。
こっちを塗り塗り、あっちをぐりぐり、あれ今日ってバレエの発表会か何かでしたっけ?と思うほど、ピン子は舞台化粧と見まごう厚さでありったけの化粧をわたしの顔面にほどこしているのでした。アイラインもグリッグリと、ぶっとく描かれてパンダ状態。最後には長いつけまつげを取り出してきたので「え、それつけるんですか!? ちょっとメイク厚すぎじゃないですかっ!?」とピン子に声かけると、
「あらあ~そんなことないわよお。これぐらいやらないと、ドレスに負けちゃうのよ。ドレス着たらちょうどいいって思うから安心して。つけまつげ、初めて? だーいじょうぶだいじょうぶ、しばらくしたら重さに慣れてくるから」
ピン子はわたしの抗議などお構いなしに、マッチが20本くらい乗るんじゃないかってくらいのロングつけまをドスッと装着し、メイク完成。鏡を見て
「これが……わたし………?」
となるはずも当然なく、ギャルメイクをほどこされた衝撃で無言になったわたしに、ピン子はさらに畳みかけてきます。
「髪型だけど、何か考えている? 希望はありますか?」
「…もうできるだけコンパクトに! 小さくひとつに! まとめたいです! なるべく派手じゃないようにお願いします…」
「あ、そーお? じゃあね、2つやり方があるんだけど、どっちがいいかしら」
「こういう風に上にまとめるやり方と」
「サイドにまとめるやり方」
いやいやいやいや。おかしくない? 提案まちがってない? ピン子さんそれ誰がどう見てもキャバ嬢の盛り髪ですけど!
まさか本気? 本気で盛るつもりなの? ウェディングなのにそんなことあるかい、と思ってふと隣でヘアメイクしていた若いお嬢さんを見ると
盛っちゃってるよねえ〜〜
20代の若いギャルなら、それでもよかろう。けれどこのお店は、目の前にいるもうすぐ50になろうかっていう中年女性の肌感とか雰囲気とかいうものに一切フィットさせる気がないようです。
「いやもっとこう、コンパクトに!まとめ髪に!地味にしてください!」と精一杯の抵抗はしてみたものの、「あらそーお?」とピン子はちょっと不服そうに、でもしっかりと盛るところは盛って、エクステ満載のギャルヘアを完成させたのでありました。
あれなんだろう震えが止まらない
「じゃあドレスを着てもらいましょうか」
ザビ男の衣装をひとしきり仕切り終わった風の内海桂子師匠と山村紅葉がやって来て、1階の奥の更衣スペースに先日選んだ(痛恨の)プリンセスドレスをスタンバイ。ところがそのスペースはトイレの個室くらいの狭い空間で、下着姿に着替えるので精一杯でした。
「ちょっと厳しそうね、いま誰もいないから、こっちに出て着てもらえますかー」と紅葉に促され、下着のままドレスを抱えて更衣スペースを出ると、
いや紅葉!紅葉!紅葉! ここ店頭ですやん!
ガラス張りで外から丸見えですやん!!!!
店の目の前にある横断歩道の向こうに、観光客らしき集団が歩いているのを確認しながら、そそくさとドレスを装着。「誰も見てなくてよかったですねー」って紅葉! 安心のしかたがまちがってますから!
いやーすごいな、このお店。熟女たちの行動がラフすぎて、だんだん面白くなってきました。そうして準備オッケーになったところで、タキシード姿のザビ男が登場。どんなホストっぽい衣装を着せられたかと思ったら、予想外にシックな装い。なんだ熟女たち、扱いがずいぶん違うんじゃないか。あまりの不公平感にブツブツ言っていると、ザビ男がわたしを見てニヤリとひとこと、
「バケたねえ~( ̄ー ̄)ププ」
そのひとことで、もう今日は全力で笑いを取りにいく方向でがんばることに決めました。
母上、姉上、その他のゲストのみなさんも店の前に集合した模様。きらきらキャバ嬢ヘアメイクと、ぷりぷりプリンセスドレスと、ありったけの勇者の心で、じじょうくみこ48歳(当時)。人だらけの観光スポットでのフォトウエディングという戦場におもむいてまいります!
(熟女が強烈すぎて終わらなかった…つづく…)
Illustrated by カピバラ舎
*この記事はウェブマガジン「どうする?over40」で2015年に掲載した連載の内容を一部アレンジして再掲載したものです。
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![じじょうくみこ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27213117/profile_ef4434ddd80a31553265d713e2391014.jpg?width=600&crop=1:1,smart)