祝宴狂想曲(7)今はもう秋、誰もいないウミベ。
みなさま、こんにちは。雨が降るとテレビが映らなくなる離れ小島のシマ島より、じじょうくみこでございます。
5年前の結婚パーティでどえらい経験をしたお話のつづきです。
婚礼衣装を着てプロカメラマンに写真を撮ってもらう「フォトウエディング」の存在は知っていました。ただ、なにしろわたしが若いころにはなかったサービスですから、正直なところどんなカットをどれくらい撮るのか、詳細はよく知りませんでした。
「新郎新婦の貸衣装+小物・靴+ヘアメイク+記念アルバム&CDデータプレゼントで5万円ぽっきり」と聞いたので、てっきりキメ写真を数点撮るぐらいだろうと高をくくっていたのであります。
甘かったです。
もともとこんなにサービスのいいお店なのかは不明ですが、貸衣装屋の社長とセンセイ、カメラマン・ウミベさんという謎の三角関係がこんがらがって、ザビ男とわたしのロケ撮影は30分を超えても終わるどころか、妙な熱気に包まれて進行していたのでありました。
このとき、すでに20カット以上が撮影済み。ロケ地は地元で一、二を争うド観光スポットだけに、時間がたてばたつほど人出は増えていきます。ああ、1分1秒でも早くこの場から立ち去りたい。ドレスの裾をまくし上げて撤収ポーズを見せて「もう撮影はいいんじゃないですかね」とウミベさんにストップをかけるのですが、ウミベさんはそれが遠慮に聞こえたのか、一向にカメラを降ろしません。
「じゃあおふたり、もうちょっと近づいてみましょうか」
「え、もうじゅうぶん近いんですけど…」 (パシャ、パシャ)
「うん、うん。ちょっと腕を組んでみましょうか」
「は、はあ……」(パシャ、パシャ)
「うん、うん、そのまま前に歩いてみよう!」
「はっ?」(パシャ、パシャ)
「うん、うん、いいですよーいいですよー、ハイそこで両手をつないで!」
「はっっっ!?」(パシャ、パシャ)
「うん、うん、じゃあそのまま見つめあってみようか!」
「いやいやいやいや」
「そこでダンナさん! 後ろから腰に手を回してみよう! もっとこう! はい、そう! それ! いま! うんそうそう!!」
「ムリムリムリムリムリムリ」(パシャ、パシャ)
※写真はイメージです。実物はお見せできません…
オッさんオバちゃん被写体でどんなシャッターチャンスがあるんだ! と疑問を呈したいところですが、ウミベさんがしゃがんだりねそべったりダイナミックに撮影するものだから、様子を見ていた親族までニヤニヤしながら「いいぞーやれやれー」「チューしなよー」とヤジを飛ばす始末。
それを聞いて、何事かと足を止める観光客もわらわらやって来て「なになにウェディング? え、オバちゃん…??」と二度見する感じでこちらを見ていてもう死にたい。それでも母上と姉きくえが楽しそうにこちらを見つめているのがわかると
うううううーーーーやめられないーーーーー( ; ; )
そのときザビ男が自らわたしの手を取り、率先して見つめ合うポーズをとり始めました。この手の行為は誰よりも嫌がる男が、どうしたザビ!? と不審に思っていたら、ひとこと。
「始めれば、終わる。」
悟り…?
顔は笑っていましたが目は死んでいました。
くっついたり寄り添ったり芝生にねそべったり、いったい何十カット撮ったことでしょう。安く衣装借りられてよかったねーなんつって無邪気に喜んでいましたが、まさかこんな恥辱プレイをすることになるとは。親孝行って、親孝行って、試練なのね…。
その後、ウミベさんは「次の撮影まで時間があるので、おつきあいできますよ」と、なんと食事会までみっちり撮影してくれるという大サービス。めっちゃいい人だった。めっちゃ腕もよかった。でもいかんせん腕がよすぎて恥辱度倍増した。
後日わが家に100カットにおよぶ写真データが届きましたが、ツーショットでの顔のひきつりが尋常じゃなくて、「ウミベさん、ごめんよ」と言いながら、CDーROMをそっと押入れの一番奥に封印したのでありました…。
(つづく…ってしつこいですよね、次が最後です)
Illustrated by カピバラ舎
*この記事はウェブマガジン「どうする?over40」で2015年に掲載した連載の内容を一部アレンジして再掲載したものです。