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カマドーゾクの兄弟(とシスの復讐)

みなさま。こんにちは。4連休の2日目、いかがお過ごしでしょうか。シマ島は過疎の島なので飲食店が非常に少なくて、海水浴シーズンになると食事を求めて島中をさまよう旅行者の姿が見られるのです。そこに今年はコロナ禍で入店数が制限され、あちこちの店先で入れろ入れないのつばぜり合いが起きている模様。集落中が異様なムードに包まれている、そんな楽しい連休でございます。

そうなるとどうなるかというと、旅行者が向かうのはスーパーなのでございます。夏営業のスーパーの殺伐さったらそれはもうすさまじいもので。というわけで、前回からのつづきです。


カモメ


スーパーの仕事は大変だ、とかねてから思ってはおりましたが、正直ここまで大変だとは想像しておりませんでした。世のスーパーがこうなのか、島のスーパーだからこうなのか、バイト初体験のわたしとしては判断がつかないところですが、とにかく一時たりともじっとできない忙しさ。スーパーの中をカサカサカサカサ音を立てて動き回る、わたしったらまるでネズミのよう。

わたしの業務内容を説明いたしますと、朝番の出勤は8時半。タイムカードを押してユニフォームとエプロンを着用し、毛むくじゃら副社長カマドナツミの「おっはよ〜( ´ ▽ ` )ノ♪」の愛らしい声を聞きながら、まずはその日の特売をチェック。

青果売り場へ向かい、特売品を特売価格に貼り替えながら、前日の特売品を通常価格に戻します。終わったら、ほかの野菜や果物で品薄のものを目視でチェック。必要なものを冷蔵庫から出し、値札を打ち出して貼りつけ、売り場へ並べます。

つづいて乳製品売り場と乳製品売り場へ行き、同様の手順で作業します。賞味期限が短いものが多いので、品出ししながら日付をチェック。期限切れが近いものは半額にして、通称ガチャガチャと呼ばれるラベラーで値段をつけ、見切り品コーナーへ移動。ここらへんでだいたいスーパーのオープン時間。

冷蔵ものが終わったら飲料・酒コーナーの品出しを同様にやりながら、動きが早い青果売り場を定期的に確認に行き、品薄になっていれば随時品出し。この時期よく出る白菜は、半分または1/4にカットしてビニールでラッピング。長ネギは3本をテープで1束に、大葉は10枚をゴムで1束に。

きゅうりや人参は、カマドアキラ社長の指示にあわせて2〜3本を袋詰め。ほうれん草やレタスなどの葉ものは傷みやすいので、様子を見ながら少しずつ品出し。だいたいこのころには荷物が搬送されてきます。「荷物がきたよ」の合図があると、レジ番以外の人はバックヤードへ集合。

手分けして荷物をトラックから下ろし(これが死ぬほど重い)、売り場に出すもの、冷蔵庫や倉庫にしまうものを仕分け、品出しする野菜や果物は当日の売値を確認してラベルを打ち出し、各売り場へ陳列。その他の商品は台車に積んで、各売り場の前にダンボールごと置いておきます。

荷下ろしが済んだら、こんどは各売り場で荷ほどき→陳列。見覚えのない商品は初入荷の可能性が高いので、レジに登録されていない場合は、アキラ社長に値段を確認します。そうこうしているうちにレジが混んできて「レジ応援よろしく」の声が飛ぶのでレジに入ります。

そうこうしているうちに「荷物きたよ」の声が飛んでくるので、再びバックヤードに集まって荷物を搬入→仕分け→品出しします。そうこうしているうちにレジに列ができて


あああああああああああああああああああ



……大変失礼しました、なんか書いているうちに恐怖にかられてしまい…。とにかくそんな感じでスーパーではレジ係、青果担当などと役割が分かれておらず、全てのひとが全ての仕事をこなさねば話にならないのであります。

おまけに規模こそ小さいけれど、生鮮食品から酒、タバコ、雑貨、家電、ペット用品まで取り扱いジャンルはやたらと広い。そのくせレジでバーコード登録されていない商品が多かったり、日によって陳列場所が変わっていたり、「メンマ付きチャーシュー」はラーメンコーナーだけど「ラーメンチャーシュー」は肉売り場なんていう飛び地ケースもあったりなんかするもんだから

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オバちゃんキャパオーバー。


野菜の取り扱いと陳列場所を覚えるだけでも四苦八苦なのに、加工食品、乳製品、菓子・パン、飲料・酒と担当範囲をどんどん広げられ、働き始めて1ヶ月もしたころには副社長夫人のカマドアケミから


「くみちゃん、そろそろレジ入ろうか
「え! まだ全然、全然、売り場も全然覚えてないです!」
「だーいじょうぶ。バーコードをぴっとすれば、あとはぜーんぶ機械がやってくれるから♪」
「いや、ちょ、まだ…」
「私ができるんだからだいじょーぶだよ。高校生だってやってるんだよ」
「えーー………」


いざレジデビューの日。
「いいいいいらっしゃいませえ〜    ぴっ」

ビーーーーーーーーーーーーーーー(エラー)



嘘つきいいいいいいいヽ(;▽;)ノ

そこにアキラ社長がやってきて
「これ、つけで」
「えっ??」

「これ、伝票で」
「えっっ???」

「山田屋だけど弁当10こ、刺身15こね」
「ええっっっ????」

「これ、あとで○×△▼%&$#ズラ&#”1」
「えええっっっっ???????」


ムリいいいいいいいいいい。・゜・(ノД`)・゜・。


レジに入ってわかったのですが、そのスーパーは民宿や飲食店が仕入れにやってきたり、弁当や刺身の仕出し注文を扱っていたのです。普通のレジですら「バーコードぴっ」以外の手動作業が多すぎてパニックなのに、お代はつけといてだの、伝票切ってくれだの、刺身を何皿お願いだのと屋号でバンバン言われるもんだからもうもうもうもう


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オバちゃんリバース。



スーパーの仕事に慣れていないうえに、方言わからない、土地勘ないというこの三重苦。これまでの経験値が一切生かせない世界で、おのれの役立たずぶりに凹みっぱなしであります。そのくせ、もっとあそこをこうすれば楽に作業ができるのにとか、これをあそこに置けばお客さんの目に止まるのにとか、都会と島を比較してはマイナス面ばかりが目につき、わたしを必要以上にカリカリさせるのでありました。


そして、そんなわたしに追い打ちをかけてくる人物がひとり。現場をしきっているカマドアケミであります。


「くみちゃん、土曜日も出てくれない?」
「くみちゃん、午後も出てくれない?」
「くみちゃん、車で倉庫から荷物運んでくれない?」


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へいへいへーい


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ユー、ほしがりすぎじゃなあ〜い?


わたしの採用を決めた社長夫人のカマドサユリは相変わらず優しくて、

「くみちゃん、いいのよ、がんばって腰悪くしたら大変だし。無理しないでね。畑違いの仕事だからきついでしょう、ごめんねえ」

といつも気遣ってくれるのですが、カマドサユリがよくしてくれればくれるほど、カマドアケミの目線が厳しくなるのは、わたしの気のせいでしょうか……。


左4c

行くも地獄、戻るも地獄



「スーパーの仕事、向いてないみたい。つらくなってきた」

あるとき耐えきれずダンナのザビ男にぽろっと愚痴をこぼしたことがありました。ザビ男は「そうか」と言ってしばらく黙り、

「仕事が終わったら神社へ行こうか。今夜、お祭りがあるんだ」

とだけ言いました。

その夜、神社ではシマ島恒例の秋祭りが行われていました。ちょっとした屋台が出るくらいかなと思っていたら予想外に大規模で、境内は大変な人だかり。神楽舞台では明るいうちから島民による出し物がくり広げられていたようで、わたしたちが行ったころにはふるまい酒をかっくらった島民たちがいい感じで盛り上がっておりました。

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ザビ男から「一緒に行こう」と誘うなんてめったにないことでしたが、いざ行ってみれば露店の食べ物や飲み物は売り切れ状態。買うものはないわ、知り合いはいないわ、外は寒いわで、まわりの盛り上がりをよそにテンションだだ下がりでありました。

「もう帰らない?」
「来たばかりだよ」
「だってやることないし」
「舞台観て行こうよ」
「知らないひとの発表を見てもねー」
「そう言わないで。ほらあそこ、カマドアケミがいるよ」
「え?」

指差されたほうを見ると、よさこいコスチュームに身を包んだキメキメのカマドアケミが目に飛び込んできました。カマドアケミが、よさこい! 似合いすぎてて逆にこわい! はたして彼女のパフォーマンスは…


「………普通だね」
「島民だしね」
「なにそれ」
「明日カマドアケミに言ってみなよ。昨日見ましたよーすごかったですねって」
「ん?」
「いいから。言ってみなよ」
「う、うん……?」


翌朝いつものように店内で作業していると、カマドアケミがやってきました。

「くみちゃん、ここのシフトなんだけど、木曜出られない?」
「この日はダメなんです。来週の木曜なら大丈夫ですけど、再来週はまたダメで」
「来週なんて先の話はまだいいよ」
「先…」
「Aちゃんは月曜、Bさんは火曜、Cさんは水曜。みんな、交代で週1休んでいるのね。くみちゃん月曜と土日祭日休みでしょ。そのうえ木曜日も休むの? 出たり出なかったりするの、やめてくれる?」
だったらやめてやるよ


その言葉が喉までせり上がってきました。東京ならば、逃げようと思えば逃げられた。でも島ではそうはいかない。どうするくみこ、どうするどうする……。頭の中でぐるぐるしていたそのとき、ふと、昨夜のことを思い出したのです。


「そういえば、昨日見ましたよ。よさこい。アケミさん最前列で踊ってましたね」
「あ、そう見たの? やだあ」
「すごかったですね。2曲も踊ってましたよねえ」
「もう大変だったのよ、振りを覚えるの!」
「髪型も盛ってましたよねえ」
「そうなのそうなの、めいっぱい盛ったのよ、頭が重くてグラグラしちゃってえ〜ガハハ(≧∇≦)」


カモメ



1時間後、カマドアケミに再び呼ばれました。


「くみちゃん、木曜休みにしようか。カラダきついでしょ? ムリしないでいいよ」


カモメ

ぬん




さんざん悩んだ挙句の解決策がコレかよって感じでなんともはやではありますが、結局人と人のつきあいなんて杓子定規じゃいかないもので。はたしてザビ男が全てを見通していたかどうかは定かではありませんが、結果的にわたしはそれ以降、希望通りに休みを取れるようになったのでありました。

そしてこのあとシマ島に本格的な冬が到来し、わたしはこの面倒くさくも華麗なるカマド一族とともに、ある危機に直面することになるのでありました…。

それではみなさま、また。


Illustrated by カピバラ舎

*この記事はウェブマガジン「どうする?over40」で2015年に掲載した連載の内容を一部アレンジして再掲載したものです。



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