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<25>働く女子、見守る男子、暗躍するオバチャン。

じじょうくみこが誕生して丸10年。というわけで勝手に生誕記念⁉でウェブマガジン「どうする?Over40」に連載していた処女作の「崖っぷちほどいい天気」をこちらに転載しております。

現在、四十路ハケンOL編が進行しております。大手企業で付録をつくる部署に配属されたわたくしでありますが、「珍獣パラダイス」と呼んでいる部署のメンバーがパンチありすぎてだんだん面白くなってまいりました。

このとき覚えたワザは現在にしっかりと活かされていて、人間本当に無駄なことってないんだなとしみじみ思う、10年後のわたくしであります。

それでは、どうぞ~。


*** 2013年11月9日の記事***

働く女子、見守る男子、暗躍するオバチャン。


若かりし頃、ある工務店の社長さんにビジネス成功術のような話をうかがったことがあります。若い職人さんを率いてユニークなサービスを発案し、実績を上げて注目されていた方だったのですが、話の途中で社長はこう私に問いかけてきました。

社長「男子社員の士気がどうしても上がらない。業績が滞っている。そんな時に現状を打破して作業効率を上げる秘策があるんだ。何だと思う?」

くみ「なんでしょう。給料を上げるとか? 即戦力のある人材を投入するとか?」

すると社長はニヤリと笑って、こう言いました。

「それはね、未経験の若い女の子を1人雇うことだ」



……この、どエロくそじじい


という心の声が漏れずに、取材をぶじ終えられたことを神に感謝しました。

要は「男は単純だから、未熟で手のかかる女の子が1人いるだけで、自分ががんばらなくてはと人一倍働く」という話。当時、まさにその未熟で手のかかる女子だった私は、バカにされたようで非常に腹立たしかった記憶があります。

あれから20年。あの時の社長の言葉は、なるほど確かに真実だったのだと思い至った、四十路ハケン社員じじょうくみこでございます。

あんなことやこんなことやそんなことがあって、珍獣男子に囲まれハケンOL生活を続けていた私ですが、実はエジマックスと入れ違いに数人の女子が異動してきておりました。付録を作る仕事は何かと特殊なテクがいるらしく、ここ数年メンバーはほとんど変わっていなかったといいます。部署にとっては久々の新人、しかも珍獣の中に女子投入という、まさかの仰天人事。

ここで色めきたった、2人の20代男子がおりました。

1人の名はサトゥ。大病院の院長の息子だとか、祖父は政治家だとか、なにかとセレブな噂が絶えない人物でしたが、長身モデル体型とノーブルな顔立ちとは裏腹に、恐ろしいほど小心な男子でありました。何をするにも念には念を押し、関係者という関係者に確認をし、確認したがゆえに「こっちを立てれば、あっちが立たず」状態に陥ってドツボにはまる負のスパイラル。

彼の無駄な動きにつきあうほうはたまったもんじゃないですが、その慎重さゆえに他の人が見過ごした小さなリスクを回避できたりもするので、社内の人間は「ちっちぇ」と小さくつぶやきつつも彼を温かく見守っておりました。

もう1人はガッタくん。やたら絵がうまかったり、やたらMacにくわしかったり、やたら持ってるアイテムがこじゃれているアート系男子であります。そして、なんといっても独創的な髪型の持ち主。独特のゆるふわ感で、基本的には風が強く吹いている状態。日替わりで驚くほど変わるそのフォルムを愛でるのが、私のひそかな楽しみでありました。


謎のシステム。


しかし草食男子的なルックスからは想像できないほど、彼は強烈なまでの九州男児でありました。「野菜などというヤワなものは絶対買わない」だの「男子たるもの台所には立たない」だの、「九州九州男(くす・くすお)と呼ばせてください」と呼びたいほどの前時代キャラ。女で、しかも年上の私に仕事を頼むのがイヤなのか、何でも1人でチャッチャとやってしまう男でもありました。

マイペースで人の意見を聞かないなところが共通するのか、この2人はどうも気が合う様子。夕方になるとツツーとどちらかの席に寄っていき、他の人には決して出さない甘い声で「ねえねえ今日飲みに行こうよお〜」「ダメ。今日残業だから」「いいじゃんちょっとぐらい〜ごはんだけでいいからさあ〜」「え〜どうしようかなあ〜」


ってなにそのイチャイチャ感? 好きなの? ねえ好き同士なの?


そんなラブラブな2人が、新人女子の指導を任されることになったのです。おいおい大丈夫かよと誰もが不安視しておりましたが、意外や意外、2人そろって思わぬ面倒見のよさを発揮。これまでのような短気を見せることもなく、まめまめしくお世話をしているのでありました。


あらやだ。男子ったら。


男子は「守り育てる」という役割を与えると、本当によく働くものですねえ。いやビックリしました。下心あるのかどうかしらんけど、いやないわけないけど、あってこその男と女だけど、それをうま〜いこと仕事で活かさない手はないよなあ、と思った次第。

そこで、第三の男に白羽の矢が当たりました。前回ミズシマと名付けられた男子であります。



無口で無愛想なため、いまひとつキャラがつかめなかったミズシマですが、しばらくして彼は無類の格闘技好きだということが判明。格闘技好きの男子は気が優しい、と相場は決まっております(じじょくみ調べ)。

また、ミズシマが毎朝きまって紙に何か書いているのですが、こっそり覗いてみると、そこには1日のタスクリストがびっしり。そのリストは夜になると横線で消されていて、消されたタスクが多いほど機嫌がよいのです。

さらに、どこかでトラブルが発生していると嬉々として駆けつけて「まずは今起きている問題を書き出しましょう。ふーむ、なるほどなるほど。ここがスムーズにいってないんですね。このタスクを解決するにはどうすればいいのかというと…」と問題点を整理して解決策を探ろうとします。

いつしか彼は 火消しのミズシマ と呼ばれるようになりました。

どうやらミズシマは自分にできるだけたくさんのタスクを与えて、それをクリアすることに無上の喜びを感じる男のようです。そこで私はある日、ミズシマにひとつの相談を持ちかけました。

く「今、キミさんとお仕事ご一緒されてますよね」
キミさんは、春に異動してきたしっかり者の中堅社員さんです。

ミ「ええ。それが何か」

く「実は彼女、つわりがひどくて困っているみたいなんですよ」

ミ「えっ」

く「キミさん最近業務が集中しているようなのですが、本人はがんばり屋さんだから自分がやらなきゃって気をはってるみたい。それに男子が多い部署だから、つわりのことを言い出しづらいようなんですよ。私が手伝いましょうかと言っても、大丈夫ですって断られてしまうので、私が手助けできるようにミズシマさん、彼女を説得してもらえないでしょうか…」

ミ「…そうなんですか。わかりました、それとなく話をしてみます」


火消しミズシマの目がキラリンと光ったのを、私は見逃しませんでした。

翌日。さっそくキミさんから声をかけられました。

「昨日ミズシマさんが『タタタスクがあふれてるって聞いたんですけど、大丈夫です、じじょうさんに入ってもらいましょう。ああいいですいいです皆まで言わなくても全部じじょうさんから聞いてますからっ!』って、すごい勢いでまくしたてて去っていったんですけど、あれ、何だったんでしょうね? まあ私としてはサポートに入ってもらえて本当に助かりますけど」


まったくもう。男子ったら。


かくして私は「事情をくんで仲をこっそり取り持つ」という、オバチャンOLならではの役割を発見することになったのであります。会社で働くのって、めんどくさい。でも、めんどくさいのが面白いってこともあるのだなあ、と新たな扉が開いたような気がする、じじょうくみこでありました。

By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎

★おまけの相関図★

ぎゅうぎゅうになってきました


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