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<16>プラダを着た悪魔、にも老後は来る。

じじょうくみこが誕生して丸10年。というわけで勝手に生誕記念⁉でウェブマガジン「どうする?Over40」に連載していた処女作の「崖っぷちほどいい天気」をこちらに転載しております。

少し間が空きました。今回は、婚活をいったん休憩して「友だちの紹介をたどった結果なんかとんでもない展開になった話」をお送りします。あれから10年、相変わらずアピアもディサピアもせずに生きております。


*** 2013年9月7日の記事***

プラダを着た悪魔、にも老後は来る。


婚活を始めて以来「本気で人のツテをたどると、思いもよらない人にたどり着く」と実感する日々です。

まあ今のところは「独身いるよ? 紹介はできないけどね」という残念な四十路独男が世の中に結構いることを確認できるだけですが、統計的にいっても「友の友の友の友の友の友」で世界中の人とつながるらしいです。人のツテ、案外あなどれません。

そういえば、5〜6年ほど前にも不思議な出会いがあったのを思い出しました。ある日、私のもとに「コレクションの舞台裏について書いてほしい」という奇妙な原稿の依頼が舞いこんだのです。

コレクション。ガンダムやエヴァのフィギュアを集めてるって話ではありません。「小学生の頃から切手収集が趣味で」とか「全国のフォルムカードをそろえてます」とかいう話でも、もちろんありません。

パリやらミラノやらで開かれる、あの「コレクション」であります。

おはようからおやすみまで、ゆりかごから墓場まで、オシャレのレの字も落ちていないのが私、じじょうくみこでございます。そんな自分に、まさかのファッション取材。あまりにも衝撃的だったので、うっかり引き受けてしまいました。

まだツイッターもフェイスブックもなかった頃ですから、当時はそうそう畑違いな出会いは落ちていませんでした。知り合いを通じてファッション誌の編集者あたりに話を聞ければと思ったのですが、こんな時に限って連絡が取れなかったり、コレクションのことは知らなかったり。これはヤバイぞと手当たり次第に連絡しまくり、知り合いの知り合いの知り合い…みたいな感じでツテをグイグイたぐり寄せていったところ


ニューヨークにたどり着きました。


何がどうなってそうなったのか記憶がないのですが、ニューヨークで働く1歳年上の日本人女性ヤイコさんを紹介されたのです。「ファッションといえば海外、コレクションといえばニューヨーク」っつーことで。

ヤイコさんはファッション業界とは無縁の人だったので、残念ながら取材には結びつきませんでしたが、メールのやり取りをしているうちにすっかり意気投合。仕事そっちのけで「うち泊まりにおいでよー」「行く行くー」みたいなノリで(でも格安航空券はがっちり取って)ニューヨークへ遊びに行きました。そしたら

悪魔が待っていました。



嘘です。

正しくは、ファッション誌のデザイナーをしているイギリス人女性。V〇○UEとかALL○REとか、ファッションに疎い私ですら知っている超ド級一流ファッション誌の編集部で働くだけじゃなく、オシャレのレの字もない私ですら知っている超有名ファッションブランドでアートディレクターをしている方でありました。

それって、まんま『プラダを着た悪魔』じゃないですかっ!!!

プラダを着た悪魔、ご存じでしょうか。ジャーナリスト志望のさえないヒロインが、何の因果か高級ファッション誌の編集部に配属され、悪魔のような編集長にいたぶられながら成長していく…という物語。ヒロイン役のアン・ハサウェイが超絶キュートなのですが、原作小説を書いたのはニューヨークのファッション誌で働いていた元編集者。業界のリアルを描いていると大変な話題になりました。

アン・ハサウェイよりメリル・ストリープに感情移入するお年頃

その業界にですよ、今まさに働いている人がですよ、私に会ってもいいとおっしゃっているというのです。どうもヤイコさん、現地の知人に「日本のライターがこんな人を探していて困っている」と連絡してくれていたようで、それに反応してくれたのが悪魔、じゃなくてルーシーさんだったのです。

いやー

ファッション業界についてちょろーっと知りたいなーと思っていたら、まさかそんなゴリゴリのファッションピープルにたどり着くとは。完全遊びモードだった私は、予想外の展開に緊張しまくり。

でも「これがニューヨーク! 面白いからのっかっとけファッファッファ」とヤイコさんがあんまり豪快に笑うものだから「そっか、そういうもんか」と妙に説得してしまい、ヤイコさんに連れられてルーシーさんのご自宅におじゃますることになったのです。


場所は高級住宅街アッパーイーストサイドにある高級マンションのペントハウス。ベランダからの眺望を見ただけで「オレもついにここまで来たか…」と、なんかもう天下取った気になりました。

スラリと長身スリムなルーシーさんは、タートルネックのセーターにジーンズというシンプルなファッション。おそらく四十路、場合によっては五十路か、若々しいというより年齢不詳の、気さくな女性でありました。

長年ロンドンで働いていたのですが、仕事の都合で少し前にニューヨークへ移住してきたとのこと。英米両国のファッション業界に精通している彼女ですが、どうもアメリカとイギリスではずいぶん違うようで、

「ニューヨークに来て初めてパーティに行った時、ヴィンテージのニットを着ていたら入場を断られちゃったの。『あなたの服、穴が開いてますよ』だって。ほーーーんとにちっちゃなほころび見つけて、それよ!?  

イギリスでは古着をいかに大切に、オシャレに着こなすかを大切にしているけれど、こっちの人は新しいもの、最先端のものが全て。編集者もみんな深夜まで必死に働いて、サラリーをつぎこんで洋服を買ってオシャレしているの。ホント命がけよー」

ふうむ。やはり映画の世界は本当だったのか。働いて、買って、働いて、買って、働いて、すれ切れて。聞いているうちになんだかいたたまれなくなってきて、思わず聞いてしまいました。

くみこ「その人たちは、それで幸せなんでしょうか?」
ルーシー「彼女たちは彼女たちの幸せの中で生きているんじゃないかな」
くみこ「じゃあ、すり切れるように働き続けて年を重ねたら、彼女たちはどうなっていくんでしょう」
ルーシー「ディサピア」
くみこ「ディ…?」

ルーシー「ディサピア。ゼイ・アー・ゴーン


Dissapear=見えなくなる、姿を消す、失踪する



ディ…


ディサピアーーーーーッッッ!!!!!!!(((;゚Д゚)))



「一線でバリバリ働いていた独身の女性って、ふと気づくと現場からいなくなってるのよ。引退したのか、クビになったのか知らないけど。50代くらいかなあ、ある日突然パッと消えちゃうのよねー

消えちゃうのよねーってルーシーさんそれホラーなんですけど!!

独身女性が現場からディサピるってどういうことなんだろう。細かいことは聞けませんでしたが、でも一線からディサピッちゃっても人生は続いているわけで、はたして彼女たちの老後はどうなっているのやらと一人思いをはせていたらルーシーさんが一言、

「まあ賢い女性はやっぱり結婚して家庭を作っているわよねー」


あら


まさかの返り討ち?


マンションを出て地上に戻り、地下鉄の駅に向かって歩きながらヤイコさんと「地に足つけて生きていこうね」と確認しあったあの日。てかそもそも世の中にアピアしてない人間にディサピアも何もないだろってことは置いといて、ひとまず人のツテをたどっていったら人生のダメ出しされますよって話(え?)。

By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎

★おまけの人物相関図★

ディサピアの呪い


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