ああ隔離。じっとできないオッちゃんの残念な夏。
「嵐のような凪のような、島の片隅でくじを引く。」のつづきです。
すったもんだあったものの無事3年ぶりに開催された、シマ島の夏祭り。正直いって、こんな小さな夏祭りひとつでここまで一大事になるとは驚くばかりですが、「万が一なにかあれば一生言われる」という呪縛は離島のムラ社会ではとりわけ強力で、すべての行事が「大事をとって中止する」の方向に向かってしまいます。
ちなみに先日は秋の運動会を開催するかどうか審議されましたが、島民の多くが「やりたい」と声をあげたのにも関わらず、運営側の「大事をとって」のひとことで中止が決まりました。
いやはや。ここまで厳しい自主規制しちゃって、どうやって始めるつもりなんですかね。
話がそれましたが、初めてのPCR検査を受けて夏祭りを手伝ったわたしであります。おかげさまで特に混乱も苦情もなく穏便に終了。これでこの夏はどうにかしのいだかなとホッと安堵した、翌日のことです。
夜、食事をすませてのんびりしていると、ダンハンのザビ男に1本の電話がかかってきました。こんな時間に電話が来るのはめったにありません。「うん、うん、う・・・・え??あーそうか、そそうか、うんわかった、とりあえず休んでもらっていいから、お大事にね」と言って電話を切ったザビ男に「どうしたの?」と聞くと、
「さっちゃんが陽性だって」
さっちゃんというのは、ザビ男が一緒に働いているパートのおばさんです。シマ島でも連日陽性者が出ていたので、感染自体は驚くべきことではなかったのですが、さっちゃん陽性のニュースは「まさか」の大事件でした。
というのも、ザビ男が働いているのは島の中でも中心地からはずれた小さな集落で、暮らしているのはじいちゃんばあちゃんばかりです。旅行者もめったに訪れませんし、地元の住民も感染を極度に恐れて集落内すら出歩きません。日中はまるでゴーストタウンのように静まり返っています。
そんな集落で、ザビ男は地元集落に住んでいるさっちゃんと、小さな職場で2人だけで働いていました。さっちゃんもほとんど出歩かず、ザビ男はこういう集落で働くということで衛生面にはかなり気を使っていたのです。
お客さんと接する機会が多いわたしは、万が一どこかで拾ってしまうかもしれないなと思っていましたが、まさかこの集落から感染者が出るとは予想していませんでした。
その集落は昔から人の人のつながりがすこぶる密接で、団結力の強さで知られています。子供も小さい子から高校生、大学生まで学年関係なく一緒に遊ぶような。その距離の近さが裏目に出て、夏休みに帰省してきた大学生から子供たちにうつり、その家族がうつる…というルートで集落内に感染が広がっていることが判明。さっちゃんも高校生の娘から感染したようでした。
ここまでわかってハタと気づきました。待てよ、狭い事務所で2人きりで働いているさっちゃんが感染したということは、つまりザビ男は濃厚接触者になる……??
「陽性になりました」と同僚から連絡が来たものの、その後どうすればいいのかという連絡はどこからも入りません。濃厚接触者の判定ってどうなるの?保健所から連絡は来る?ザビ男は全く症状がないのだけど、診療所に相談したらいいの…? というか今ザビ男と一緒にいるわたしはどうすればいいの??と2人ともパニックです。
ひとまずザビ男は診療所と職場に連絡。PCR検査キットを入手できたので、急いで準備して投函。我が家には93歳のザビママがいるので、どうすれば接触せずに過ごせるか、どこまで共有できるのか、家族が感染した友人に細かくヒアリングして、その夜のうちにザビ男の隔離体制を作って生活動線のフローを決めました。
翌朝には再びさっちゃんから連絡が入り、ザビ男は濃厚接触者にはあたらないことがわかりました。よかったのはよかったけれど、この環境で濃厚接触者にならないのか!とビックリ。
とにかく濃厚接触者の判定が出ない以上、ザビ男に何の制約もないかわりに応援もありません。本来ならその日からザビ男は夏休みでしたが、2人しかいない職場で1人が出勤できなくなったということは、ザビ男が出勤するしかありません。できるのは、お互いにできるだけ人と接触しないようにすること。
わたしは同僚のタオちゃんに事情を話し、念のため在宅ワークにすることに。タオちゃんも大家族で暮らしているので、念には念を押してしばらく会わないことにしました。ザビ男は仕事中はできるだけ人と接触しないように努めつつ、検査結果が出るまで家の中で別居生活となりました。
それにしても、ザビ男の憔悴ぶりったら。余命宣告受けたんかってくらいのしょぼくれぶりなので、「もしかして症状出たの」と心配になったのですが「いや何も」。ないんかい。なくてそれかい。
そして夕方。検査結果がメールで届きました。どれどれとスマホの画面をのぞき込むと「ダメ!見ちゃダメ!」と全力で拒否るザビ男。しかたないので少し離れて様子を見ていたのですが、画面を手で隠して、ちょーっとずつ手をずらしては恐る恐る画面を見ているのです。
「……そんなに怖いなら見てあげようか?」
「いや、いい!自分で見る」
「じゃあガッといきなよ。わたしこないだ検査したからわかるよ。陰性か陽性か、1スクロールすれば出てくるよ」
「だ、だーいじょうぶだって、わかってるって」
「ほら、動かして」
「わーかってるってば……あーこわいこわいムリ見れないー!!」
「………」
無言で背後から近づき画面をスンッとスクロール。
「あっ……」
息を止めるザビ男。
「陰性だ。ほーら陰性だ、陰性だ!はーっはっは!隔離終了!はっはっはっ!」
いやはや、今どきこんなわかりやすい小心者いますかって話。わたしが検査したときは「ふーん」だけだったくせにい!
なにはともあれ、念のため数日は自粛しようということになりましたが、ザビ男は夏休み返上で働くことになり、楽しみにしていたイベントも全てキャンセル…。なんともさみしい8月となりました。
それでもじっとできない男・ザビ男にとっては行動を制限されるくらいなら働いているほうがまだいいようで。なにより感染してなくて本当によかったということで、連勤なのにうっすらウキウキしているのでヨシとします。
という話を早く書こうと思っていたんですが、時間が取れない間に濃厚接触どころか周りで陽性者が続出。もはやどこでかかってもおかしくない状態なので、今回のシミュレーションをもとに万が一の時に備えたいと思います。