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「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
原題:Manchester by the Sea
監督:ケネス・ロナーガン
製作国:アメリカ
制作年・上映時間:2016年 137min
キャスト:ケイシー・アフレック、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、ミシェル・ウィリアムズ
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もし邦画だったら、と考えた。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は実際は現実にある人口5千人ほどの小さな町。漁業から発展し映画主人公がボストンから車を飛ばして帰るシーンでも解るよう大都市に近い位置から今は避暑地に変貌している。日本では人口5千人では町ではなく村の単位になる。調べても知らない地名ばかり。中規模校中学校で800人をベースにすると5千人の町は本当に窒息しそうな位に小さい。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を国内で知っている地名「六ケ所村」と規模相当だとしたなら小さな町の空気が伝わるかもしれない。
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この町では私も経験があるが「誰それの子」が名前よりも優先され認知される。映画の中でも「君のお父さんは云々…」と主人公リーは聞かされる。病死した兄は人望ある存在で同じように聞かされ、比較される。彼はチャンドラー家の次男坊として生かされる。その町で何かが起こった時、それが不祥事であるならもう居場所を失くすことになる。
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生まれ育った町を離れ一人で生きていくことを択んだリー。映画冒頭便利屋として働く彼には仕事柄の愛想さえ浮かべず無表情。淡々とルーティーンとして働くだけ。生きるエネルギーなど一切感じさせない。感情を捨てたというより奪われたように映る。
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愛する兄の訃報で故郷へ帰ることから彼の喪失からの立ち直るきっかけが描かれていく。町を離れてもまだ過去のことからは何も逃れられていないことをこの帰省で知り、もう一度悲劇に向くことになる。
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人は小説を読むように或いは論文を書くように理路整然とは思い出さない。
映画の中で過去のシーン(彼の回想)が随所に挿入され不明瞭だった部分が明らかになっていく過程は自然だった。何かの拍子に突然思い出すシーンが、或いは連想で紐付けされたシーンが出て、彼の人生を象っていく。話が進むに従って彼の感情を捨てた冒頭が痛いほど理解できる。
全てのコミュニケーションを断った筈が兄の死で甥と繋がる。其処には死んでも弟のことを心配し配慮し「後見人」という形で逃げた過去に呼び戻し「人生を仕切り直させよう」とする兄の思いがあるようにみえた。弁護士に託された計算された遺言にそれは如実に現れていないか。
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過去と現在、未来を結ぶこの船の存在は大きい。この船で思い出を作り、これから先は思い出を語り、また新たに付け加えていく。
後半近い甥っ子とのキャッチボールシーンは非難しながらも叔父についていく姿と一度は後見人になっても全て切ろうとしたリーが家族と歩み直す兆しを押し付けがましくなく伝える。
出演シーンは少なかったが兄のカイル・チャンドラと元妻のミッシェル・ウィリアムズは映画に深みを与え好演だった。
★★★★