「ベン イズ バック」
原題: Ben is Back
監督:ピーター・ヘッジズ
製作国:アメリカ
製作年・上映時間:2018年 103min
キャスト:ジュリア・ロバーツ、ルーカス・ヘッジズ、キャスリン・ニュートン、コートニー・B・ヴァンス
薬物依存症の息子が突然にクリスマスイヴに施設から一時的に帰宅する場面から作品は始まる。クリスマス時期に本国で上映されたのに対し時期外れの日本公開はクリスマス設定の意味が活かされず残念。只、商業ベースのプレゼントをもらうだけの意味で存在する日本人には根本的に伝わらないが。
聖劇練習を嫌がる子らに「一年に一回じゃない」と母親が諭すところでは心当たりがありクスッと笑えた。肌の色が明らかに違う親子のこのシーンで作品は先ずステップファミリーだと観客は知らされる。
日本で該当する時期を敢えて択ぶならば正月が近い。キリスト教ではクリスマスを迎えるために約一か月前からこころも含めて準備を始める。
映画の中で主人公ベンが「ツリーの飾り付けが違う」という台詞。各家の飾り付けには歴史がある。我家のツリーも飾りが毎年一つずつ増えていき、実家を出る際に母から「あなたが持っていなさい」と渡された経緯がある。
この辺りも含めステップファミリーを無駄がない台詞で輪郭を浮かび上がらせていく。同じく気乗りしない聖歌練習の娘も描かれるが、此処は有効に後に活かされる。
作品の中で母親が息子を診た医師に「あなたの鎮痛剤処方が息子を苦しめた」と云うように薬物障害は決して危険なドラッグが入口とは限らない。
「オピオイド」は、ケシの成分やその合成化合物を指し、鎮痛や陶酔作用効果で医薬品として処方されてきた。ところが過剰摂取に因る死亡が一日130人に至り、トランプ大統領は2017年に公衆衛生上の非常事態として「オピオイド危機」を宣言している。
クリスマスという許しの日であれば嘘をついて帰宅しても、という思いがベンにあったかもしれない。只、クリスマスに家族との一日が穏やかに過ぎると良かったのだが、この一時帰宅が昔の悪の連鎖を呼ぶ。
とても薄くアメリカでは当たり前のようにステップファミリーが描かれる中、それでも「血の繋がり」が段々と色濃く描かれていく。一時帰宅の許可が下りたというベンの言葉を義父と妹は懐疑で受け取るが、その後のベンに対する行動にはっきりと差が出る。
ベンの薬物連鎖仲間から助けようと危険を顧みず必死の母親役をジュリア・ロバーツが、同じく母親をサポートしながら兄を思う妹役キャスリン・ニュートン、方や義父をコートニー・B・ヴァンスが熱血とは違うが同じ家族の違う温度を好演する。夫々の立場を明確に描くことで家族像が見事に浮かび上がっている。
LGBTQも日本で認識を問われている問題ではあるが、芸能人大麻は度々問題に上がってもオピオイド鎮痛薬の社会問題性は対岸の火事に近い。
最近観た「ビューティフル・ボーイ」も薬物依存を問題にしていた。どちらもごく普通の少年らが主役という重いアメリカの課題だ。
★★★☆