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「歓びのトスカーナ」

原題: La pazza gioia
監督:パオロ・ビルツィ
制作国:イタリア・フランス
製作年・上映時間:2016年 116min
キャスト:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ミカエラ・ラマゾッティ

 もし夏季休暇等でこの映画を観に行く予定がある人には、単に明るい映画ではないことを念頭に映画館へ行って欲しい。
 原題「La Pazza Gioia」 (狂った快楽)、英題「Like Crazy 」。「ヒトラーへの285通の葉書」と同じパターンで英題の方が映画内容に近い。「イタリアが好き、トスカーナ知っている」だけでこの映画を択ぶと案外と陽光の眩さとは対照に表立ってはいないものの重い主題に違和感を抱いたまま観終わることになるかもしれない。

 終始映画を観ながら頭から離れなかったのは「狂気と正気の境界はどこなのだろう」ということ。本来は境界線が必要な世界ではなく、単に効率社会が不都合な人を選別した結果なのではないかと映画が進むに従って考えが強くなる。それほどまでに主役のベアトリーチェを演じたヴァレリア・ブルーニ・テデスキの演技は圧巻で魅了された。

 自然溢れる丘にある診療所ヴィラ・ビオンディは何かしら精神を病んだ人々が生活しているが、冒頭からこの診療所の独特の拘束がない治療がなされているだろうと見られる自由に生活する患者の描写が続く。彼女らが計画的ではなかったとはいえ脱走劇に展開した際に於いても施設職員は事をおおごとにせずもう一度この診療所で迎えたいと奔走するほど管理に走らず患者に寄り添う。


 このシーンに辿り着いた時のスクリーンこちら側の心地よい安堵感。
 ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ミカエラ・ラマゾッティ。陰と陽、プラスとマイナス、凹凸、悉く正反対の性格・行動である二人が互いの琴線に触れる何かに結ばれ、生きることへ繋がる道へと戻るシーンが上の一枚。

 エンドロールの中で「2015年にイタリアでは全ての精神病院が閉鎖され機能は民間に移行中」と出る。私はこれまで全く精神科にお世話になったことが無い為殆ど知識がない。自宅に戻り調べていくとフランコ・バザーリア医師が20年近く奮闘した結果、イタリア全土の精神病院を解体し、地域の精神保健センターへ全面転換を図ることを決めた精神保健法(180号法、別名バザーリア法)が1978年に成立。尽力されたバザーリア医師は残念がら成立後まもない1980年56歳の若さで亡くなられた。

 人の喜怒哀楽を丹念に先入観無しに追った作品。
★★★★

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