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Bubble Factor影響下でのAKQゲーム 〜Downward Driftを計算する〜


はじめに

NLHEのMTTにおいて、一般にBubble Factor影響下ではベットサイズが小さくなることが知られている。これは例えばGTO Wizardのブログ、"How ICM Impacts Postflop Strategy"などでも述べられており、Downward Driftなどと呼ばれている。この現象について、拙稿"ICM, Bubble Factor, Risk Premiumの近似法について"にて得られたICM近似式を用いてAKQゲームを通じて理論的解析を試みる。

問題設定

OOP側はKを、IP側はAかQかJを持っているものとする。ここで一般的なAKQゲームと異なりJを追加したのは単にBubble Factor影響下ではリバーのバリューブラフ比が1:1を超える可能性があり、IP側に十分なブラフコンボを持たせるためであり、本質的な意味があるものではない。
Pot = 100, Stack = 150, Bubble Factor = 2.0とする。このとき、ベット額を0から150まで変化させたときのAのEVをICM近似式を用いて計算すると下図のようになる。

ベット額とEV[A]の関係 (Pot = 100, Stack = 150, BF = 2.0)

図のように、Bubble Factor影響下ではオールインがナッツのEVを最大化するとは限らないことがわかる。これはBubble Factor影響下では生き残ることが重要でありチップを稼ぎすぎてもあまり意味がなくなってくること、ベット額が高すぎると相手を降ろしすぎてしまい結果AのEVを損なってしまうことに由来し、これこそがDownward Driftの一例であると考えられる。

いつベット額が下がり、どれくらい下がるか

それではいつベット額が下がり、どれくらい下がるのだろうか?ICM近似式を用いてEV[A]をベット額について微分することにより、これらはBFとSPRの関係から決まることがわかり、以下のような結論が得られる。

  • $${\text{BF} > 1+\frac{2}{2\text{SPR}+1}}$$のときDownward Driftが生じる。

  • このとき最適なベット額はポットの$${\frac{\sqrt{1+2\text{SPR}(\frac{2}{BF-1}+1})-1}{2}}$$倍である。

  • このとき最適なバリューブラフ比は1:1になる。

例えば上述の問題設定においては最適ベットサイズは108%であることがわかる。

謝辞

本稿の計算はめすおぢ氏の鋭い指摘から着想を得て行われたものである。ここに氏に感謝の意を表する。

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