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狡兎死して走狗烹らる ―from『ウマ娘 プリティーダービー』―

「おめでとう、オルフェ。明日面白いものを見せてあげるから、楽しみにしていて」
 URAファイナルズで優勝した私に対して、彼女は言った。どうやら私に対してとっておきのプレゼントを用意しているのだろう。しかし、私は彼女の微笑みに対して不吉さを感じた。
 私は姉と共に寮に戻り、眠る。パーティー会場に彼女はいなかった。

 翌日、私は姉と共にチーム〈アヴァロン〉のトレーナー室に行った。
 誰もいない。その代わり、ぬいぐるみらしきものが床に落ちていた。頭や四肢を引きちぎられ、腸をぶちまけられたぬいぐるみの残骸が。
「ウサギのぬいぐるみ…?」
「オル、トレーナーさんの机の上に鍋があるよ」
「鍋?」
 私は彼女の机に近づき、その鍋の蓋を開けた。
 水に浸された犬のぬいぐるみが、同じく頭や四肢を引きちぎられて、腸をぶちまけられていた。
「ウサギと…犬。狡兎死して走狗らる」
 私は姉の言葉を聞いて愕然とした。
「姉上! トレーナー寮に行こう! あいつの部屋に行くんだ!」
 私は姉と共にトレーナー寮に駆け込んだ。
「何だ、君たちは?」
「どけ! 急いでるんだ!」
 私はトレーナーの明智紫苑の部屋に向かう。我がライバル、ウインバリアシオンの他にもう一人いる〈シオン〉。昨日の彼女の不吉な微笑みが、さらに歪む。
「紫苑! 私だ、オルフェーヴルだ!」
 私は部屋のドアを蹴破った。
 血まみれの床に、一人の女がうずくまる。そこには包丁と一枚の紙が落ちていた。

《黄金の血の娘たちに七代まで祟る》

 部屋の隅に、私たち姉妹のぬいぐるみ〈ぱかプチ〉が置かれている。私たちの心臓がある辺りに、笹針が突き刺さっていた。

 私たちチーム〈アヴァロン〉のトレーナーだった明智紫苑の割腹自殺について、私たちは警察から事情聴取を受けた。しかし、様々な状況証拠から、私たちは彼女を殺した犯人ではないと認められ、無罪放免となった。
 あのジェンティルドンナのトレーナーだった女も、紫苑と同じく自殺していた。しかし、彼女は自殺ではなく他殺だったという噂がある。
 トランスヘイターならぬウマ娘ヘイターたちが、URAの女性トレーナーたちを自殺に見せかけて殺しているという噂すらある。紫苑を含めたウマ娘関係者の一般女性ヒトミミたちは、ある意味私たちウマ娘たち以上に、部外者のヒトミミたちに憎まれていた。

 天涯孤独の明智紫苑は、無縁仏になってしまった。
 かつての私の〈臣下〉たちは、ことごとく私から離れていった。私と姉はレースを引退し、それぞれの道を歩んでいった。

 あれから十年。私は北海道の白老に移住し、地元のウマ娘チームのトレーナーとして働いている。
 私はある一軒家で一人暮らしをしている。地元のFM局の番組を聴きながら、私はある小説を読んでいる。
「紫苑、なぜ死んだ?」
 私は彼女の素顔を知らなかった。賢明にして冷徹な我が姉ですら、彼女の正体を知らなかった。誰よりもウマ娘たちに尽力していると思われた普通の女ヒトミミの正体は、ウマ娘ヘイターだったのだ。そう、ジェンティルのトレーナーだった女を殺したのは、彼女だったのだ。しかし、その状況証拠らしきものはなく、事件は迷宮入りとなった。
 私たちは彼女を愛していた。しかし、彼女は私たちを憎んでいた。

《黄金の血の娘たちに七代まで祟る》

 その呪いの言葉ゆえに、姉と私は自らの代で途絶えようと誓った。

【Cocco - けもの道】

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