「アーティストは音楽を売るために他の方法を模索しないといけない」-ハル・マラベル(BAD HABIT / MAD INVASION)インタビュー
ハル・マラベル率いるBAD HABIT(正確には今作からBAD HABIT SWEDENだが便宜上BAD HABITと表記)が、前作『ATMOSPHERE』(2011)発表後から長期間の活動休止を経て2018年に再始動。遂に待望の新作となる『AUTONOMY』を10年ぶりに発表することとなった。透明感を出しつつも哀愁漂うメロディ・ラインは本作にもたっぷりと詰め込まれており、長期間のブランクは全く感じさせないその見事な完成度は流石の一言。その一方でハルはBAD HABITの休止中に、新たなバンドMAD INVASIONをピート・サンドベリとスタートさせていた。こちらはBAD HABITとは一味違って硬質なハード・ロックを展開しており、ハルの作曲家としての多才振りが披露されている。2つのバンドとその作品について大いに語って貰った。
-BAD HABITが遂に再始動を果たして嬉しい限りです。前作『ATMOSPHERE』発表後の活動休止から、再結成までのいきさつを聞きたいのですが、少し前にバンド名の使用について問題があったと聞きました。以前はBAD HABIT名義でしたが、今作からはBAD HABIT SWEDEN名義となりました。この先はBAD HABIT SWEDENとして正式に活動していくのでしょうか? またこの名義使用を巡る問題はバンドの活動休止と関係がありましたか?
ハル・マラベル: そうなんだ。2011年にイギリスの別バンドがBAD HABITSの名前を持っていたことによって、バンド名義に関して競合問題が発生したんだ。これが法的に問題になったんだよ。残念ながら、彼らの方は1985年から使っていて(俺たちは1986年からだった)訴えられてしまったから、俺たちは即座にバンド名の使用を止めざるを得なくなった。この状況になったことでバンドは少し休止状態になったんだ。だから、俺たち全員がしばらくの間は他のことに集中し、すべてを少しクールダウンすることにした。休止は7年間続いた後、新たなスタートとしていくつかのコンサートでまた演奏することにしたんだよ。
-『AUTONOMY』は既発のシングルのリミックスや再録、そしてライヴ音源で構成されたコンピレーション的作品ですが、なぜこのような内容にしたのでしょうか?
ハル: 元々普通のアルバムを出す予定は無かった、ただ何か一つにまとめた作品を出したいとは思っていてね。だから既発の曲をアップデートしたり、何曲か新しく録音したり、以前のライヴ音源も入れることにしたんだ。こうした手間を掛けたものの組み合わせは、単発で1曲をリリースするよりは、ファンにもっとコレクション的なものを提供するための良い折衷案だと思ったんだ。
-今回は3曲のみライヴ音源が収録されていますが、フル・ライヴ・アルバムをリリースすることは考えなかったのでしょうか。今までライヴ作品は出したこと無かったですよね?
ハル: そうだね。今までライヴ・アルバムを出したことは無い。これは少ししか手持ちの過去のライヴ音源がなかったからなんだよね。でも将来的にはフル・ライヴ・アルバムをレコーディングしようと思っているよ。
-最近あなたが書く曲にはメロディだけでなく、モダンでヘヴィな要素も多くなっていますね。特にオープニング・ナンバーの“Retribution”はバンドの歴史上、最もヘヴィな曲の一つだと思いました。以前と比べて曲作りの際に変化したことはありますか?
ハル: 俺たちは通常何曲かヘヴィな曲をアルバムに収録しようとしている。勿論ハーモニーやメロディを組み合わせた形でね。この曲は、ギター・リフとビートがよりゆっくりとしたペースで、リズミカルにはっきりしているという点で少し際立っている。これからもこういったことは起こりうるかもしれない……どうなるかは分からないけどね。
-今回のアルバム・タイトルは「自律性」を意味しますが、これは以前にあなた方が他律的であったのでしょうか?このタイトルにした理由を教えてください。
ハル: 「自律性」は、現代社会においてますます関連性が高く、さらに重要になっているものだ。現代社会において、俺たち個人は、自分たちが行うすべてのことに、より敏感になり適応する必要がある。物事は絶えず変化し、自分たちが物事の上に留まることができるためには、適応し調整する必要があるんだ。同時に、もし人生においてより良い結果へコントロールしたければ、つまり成功するためにはスキルと能力を磨かないといけない。他人の力に頼るのでは無くてね。
これは以前レコード会社がアーティストに関する殆どをコントロールしていた音楽業界でも起こったことを捉えているんだ。音楽業界とそのビジネス・モデルの大きな変化に伴い、アーティストは自分たちの音楽製品を自分たちで適応させ、より制御することを余儀なくされている。これを行うことにより、多くの人が音楽ビジネス、マーケティング、コミュニケーションの両方の側面でより鋭く、より熟練したものになったんだ。これは良いことだと思う。自律的で、自分の結果に責任を持つ……つまり「自分でやって学ぶ」こと。ただ最も重要なのは欲しいと望んだ行動の結果を受け止めること。もし上手く行かなかったとしても、少なくとも自分がやりたいことをやったわけで、最善を尽くし楽しんだということだからね。
-『AUTONOMY』の殆どの曲はあなた、ジェイク・E、ウルリック・ロンクヴィストの3人で書いていますが、どういった工程で作曲したのでしょうか?
ハル: 俺がメロディックなフックやリフを思いついた後に、ジェイクかウルリックに渡してヴォーカル・メロディや歌詞をお願いするパターンか、彼らがアイデアを送ってきて、俺がそれに肉付けして仕上げるパターンの両方だね。時には他の誰かといる時に書く時もある。その時のムードや状況によって変わるよ。
-BAD HABITとMAD INVASIONの両方のバンドでは、あなたは作詞も担当しているのでしょうか?
ハル: いや、殆ど作詞はやってない。というのも楽器、アレンジやプロダクションに集中したいからなんだ。BAD HABITでは誰かが書いた歌詞を最終調整で手を加えるくらいかな。MAD INVASIONではピートとビヨーンが担当している。
-アルバムのカヴァーには8羽の鳥が描かれています。これはデビューEPから数えて8作目という意味なのでしょうか? それとも他に意味がありますか?
ハル:鳥の数にはこれといった理由は無いよ。アルバムのタイトルに関して前述したように、人生において「自由に飛ぶ」ことと「手を伸ばすこと」の象徴的な意味として描かれているだけさ。
-『AUTONOMY』、『EDGE OF THE WORLD』(MAD INVASIONのデビュー・アルバム)共に収録時間は40分ほどですが、これはLP1枚分の長さが一番良いと考えているのからでしょうか?
ハル: これは曲数に関係しているかな。10……つまり収録曲はこの数が丁度良いと思っている。もちろんLPにも適しているよね。
-両方のアルバムを作るに当たって、コンセプトや特に力を入れた点があったら教えてください。
ハル: BAD HABITでアルバム制作時のキー・ポイントは、曲に力強いメロディと良いエネルギーを持たせ、そのメロディをサポートする強力なギターや面白くリズミカルなものを組み合わせることかな。それと曲というのは人生において前向きな存在で、辛い時に励ましてくれるものであるべきだと思う。
MAD INVASIONでは、ギター・リフとヘヴィなリズムのセクションが屋台骨になっている。ここでのテーマは、善と悪の間の絶え間ない戦いであり、勝つチャンスを得るためには、俺たち全員が「善の戦い」と戦う必要があるということ。これはアートワークやミュージック・ビデオに時々出てくる堕天使(白装束の悪い天使)とライバルの闇の天使(黒装束の良い天使)で象徴されているよ。
-MAD INVASIONはいつ頃どのようにして結成されたのでしょうか? 特にピート・サンドベリ(Vo)の活動は日本では最近聞かれませんでしたので、彼が参加したことに驚きました。
ハル: 元々はビヨーン・ダールベリ(G)が80年代に少しの間活動していたバンドがMAD INVASIONで、2016年に改めて新バンドとしてスタートしたんだ。彼はまた同じ名前を使うことにしたんだよ。みんな80〜90年代からの知り合いだったから、ここで力を合わせてバンドを始めるのは良いタイミングだと思ったんだ。俺は2018年に参加して、ビヨーンと共にバンドとサウンドを洗練させて、今ある形に持っていったんだ。ピートはずっと色んなバンドやプロジェクトで活動していたし、ソロでもスウェーデンやデンマークで何年も活動していたよ。
-『EDGE OF THE WORLD』のリリースまで5年以上時間が掛かった理由は何だったんでしょうか?
ハル: バンドの方向性、サウンド、素材を洗練するため、と同時に曲がアルバムに合っているかを確認するのに時間を掛けたかったからなんだ。それとストレス無くビデオを撮影したかったから(7本のビデオをね)。だから最初の曲“Hold On”以降、焦点は80年代の影響を受けたメロディック・ロックから、70年代の影響を受けたクラシック・ロックに変わったけど、モダンな色合いが含まれている。既に全体像、音、プロダクションのシステムは出来上がっていて、もう次作のレコーディングに取り掛かっている。だからファンは次のアルバムまでそう長く待つことは無いよ。多分2022年の終わり頃には出せるんじゃないかな。
-『EDGE OF THE WORLD』の大部分の曲はあなたとビヨーンとピートで書かれていますが、作曲方法はBAD HABITとはまた違ったのでしょうか?
ハル: バンドの焦点が違うので、両者での俺の役割も少し異なるよ。 でも、両方のバンドで似ているのは、曲を書くことは別として、アレンジと制作に重点を置いているということなんだ。それとBAD HABITの曲はほとんどがメロディ中心(多くの場合、ある種のキーボードが軸)であるのに対し、MAD INVASIONのほとんどの曲はギター・リフ中心であるという点も異なるね。
-ミッキー・ディー(MOTÖRHEAD)がゲスト・ドラマーとして参加していますが、その経緯を教えてください。彼とは以前から親交があったのでしょうか?
ハル: ピートが彼とは幼馴染ともいえる間柄で、共にヨーテボリで育った仲なんだ。彼らは長年同じロック・コミュニティに在籍していて、だったら彼に特別ゲストとしてビデオに出演してもらうよう頼んでみるのもいいんじゃないか?と思ったんだ(で、短い間に3本撮影したよ)彼が引き受けてくれてもちろん嬉しかった。彼は特にとてもいい奴だったからね。
-ラーズ・サフサンド(WORK OF ART / LIONVILLE)がバック・ヴォーカルとして参加しています。彼もまた以前から知り合いだったのでしょうか?
ハル: 彼のことは、参加しているバンドでの活動や、スウェーデンのテレビ番組への出演(例えば、スウェーデンのユーロビジョン・ソング・コンテストにバック・シンガーとして出演)していて、以前から注目していたんだ。だから彼に連絡して、その素晴らしい歌声を良かったら披露してくれないか、と頼んで何曲か歌って貰った。
-両方のバンドとも、他のハード・ロック・バンドに比べて目立つギター・ソロが少ないのは、曲全体の調和を考えてのことでしょうか?
ハル: うん、意図的にそうしている。ギター・ソロ、特に長い物は時代遅れで必要性を感じないんだ。ただし、イントロやアウトロ、次のパートのつなぎ、クライマックスのエンディングへの誘導など、特定の目的がある場合は別だけどね。
-両バンドのアルバムを同時に出そうと思った理由は何でしょう?
ハル: 両方とも丁度同じ時期に仕上がったんだ。だから同時期に出すのが良いと思ってね。日本を除く全世界では、MAD INVASIONの2週間後にBAD HABITのアルバムが発売されるんだ。同時に自分は両方のバンドのメンバーだから、相乗効果も狙えるよね。
-両方のバンドのメンバーはとても健康的な状態を維持しているように見えます。世の中のミュージシャン、特にベテランの中には健康状態やパフォーマンスが酷い人物も多くいます。あなたが普段健康維持に心がけていることはありますか?
ハル: 健康で良い生活は、長年自分が意識的に選択してきたことの結果によるものさ。将来への投資としてね。健康な体は長持ちするし、人生をより楽しむことができる。自分たちの多くがツアーをあまり行わず、音楽活動と並行して昼間の仕事やキャリアを持っているのもこのためなんだ。そのほうが体と健康にも良いことが分かったからね。ライフ・バランスはとても重要で、それによってより長く楽しめるんだ。
-あなたはここ何年かで色んなミュージシャンやバンドに曲提供をしていますね。例えばFIRST SIGNALやCREYEと言ったバンドに。普段から作曲のオファーはあるのでしょうか?
ハル: 他のバンドと繋がりがある協力者がいるから、曲が欲しい誰かがいれば情報は入ってくるよ。自分は量より質にこだわるからそれを知っている人も多いからね。
-あなたについて調べていたら、イケア・グループで普段は働かれているようですが、具体的にどのような仕事をしているのでしょうか?
ハル: 俺は1993年からさまざまな企業で働いている。2010年にイケアに入社してからは、コミュニケーション、情報管理、ビジネス開発、プロセスなどの分野で仕事をしてきたんだ。現在は、デジタル・トランスフォーメーション・リーダーとして、デジタル組織がより機敏な働き方に変革するのをサポートしている。これは、オムニチャネル(通販や実店舗の垣根を取り払った多角的な流通経路を持つ販売方式)の小売業者としてさらに競争力を高めるためなんだ。この仕事は楽しくて興味深いもので、音楽のように他の人が最高の状態になるのを手助けするのがとても好きなのさ。
-あなたはデビューしてからしばらくはハル・ジョンストン名義でしたが、現在はハル・マラベルですね。こちらが本名なのでしょうか?
ハル: 2002年に苗字をマラベルに変更したんだ。マラベルは、自分のアフロ・アメリカン/ネイティブ・アメリカン側の家系に伝わる古い苗字で、これは自分のアフロ・アメリカン/ネイティブ・アメリカン側の家族の中でも特に古い姓なんだ。
-多くのミュージシャンが音楽のみで生計を立てることの難しさを公表しています。あなたは今後の音楽業界についてどう考えていますか?
ハル: そうだね。上でも述べたけど、今の音楽業界で良い収入を得るのはとても難しい。アーティストは音楽を売るために他の方法を模索しないといけない。マーチャンダイズ、コンサート、企業広告、その他の違うビジネスのアレンジ……それら全てがストリーム販売やCDやLPの数枚の販売よりも、より収益性の高い方法さ。多くのアーティストが創造性を発揮し、音楽と融合することができれば、より良い機会となるだろうね。
-最後に、今後の両バンドの予定を教えてもらえますか?
ハル: BAD HABITは新曲を少しずつ録音し続けて、散発的なライヴをすると思う。MAD INVASIONはより大きな計画を立てているんだ。それは、アルバムを作り続けることができる強固な基盤を築くこと、ツアーを行うこと……そして物理的なコンサートといった伝統的な方法だけではなく、恐らくオンラインでストリーミングみたいな現代的なアプローチもね。どちらの方法にも利点があると思うよ。
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