ドンの憂鬱
「報告が無いようだが?」
昔は無線を使っていたものだが、今は便利になった。こうして歩きながらでも携帯で直接連絡を取ることができる 。
「は、はい。それが」
電話の向こうで声が慌てる。
「どうした?」
「邪魔が、入りまして」
俺は舌打ちをした。
「邪魔が入るのはわかっていたはずだ。もちろんそれを想定した上で計画を立てたのだろうな?」
「はは、はい。ですが、その、想定外の事態が」
言い訳を聞いている暇はない。電話を切り目の前の扉を開けると、部下が一斉に緊張するのが見えた。
「どうだ?」
「あああ、はい。何人か面接は行ったのですが」
手渡された履歴書にざっと目を通す。
「向いていないというわけではあるまい?」
「適性のある人間はむしろ多いくらいなのですが、リーダー、幹部候補となると途端に」
「我々に必要なのは即戦力だ。今、一から人材を育てている余裕は無い」
部屋を出ると軽く頭痛がしたが、そんなことに構ってはいられない。歩きながら携帯を操作する。
「研究の進捗を聞きたい」
「順調に、はい、成果も次々に。ですが実用段階に入ったものは残念ながらまだ」
「それでは駄目だ。既に装備は不足している」
「第三世代の量産化が着実に進んでいます。当分はそれで」
急げ、と告げて通話を切ったと同時に、着信が入る。
「も、申し訳ありません、カオクフ支部が……」
俺は頭を抱えた。装備を増強し、人材を増やし、計画を練り、戦って戦って、しかしそれはもちろん相手だって、 同じことなのだ。
どちらが先に、すり減って、終わるか。
奴と、俺と。
自分の部屋に戻り、俺は深いため息をついた。昔思い描いた夢が頭をよぎる。この組織を立ち上げた時の、夢。
こんな毎日を望んだ訳じゃない。
俺は夢に近づいているのだろうか?
それとも。
窓の外では今日も戦闘員の訓練が行われている。机に置かれた怪人の資料に目を通す気にもなれない俺の後ろで、 組織のシンボルである鷲のマークだけが燦然と光り輝いていた。
2008年10月20日 お題:忙しい