見出し画像

Rider's Story このまま終わらせない

割引あり

バイク短編小説 Rider's Story「このまま終わらせない」
 オートバイブックス代表・執筆家 武田宗徳
 https://autobikebooks.wixsite.com/story

「ササキくん!」
 テーブルに並んだ料理を適当に取ってきて、自分の席に戻ったときに、声を掛けられた。顔を上げると一人の女性がワイングラス片手に微笑んでいる。二十五年振りだったが、忘れるわけがなかった。「おばさん」と呼ばれる年齢なのに、中学時代よりもずっと綺麗にみえる。マツモトケイコだ。特別に可愛かったというわけではなかった。しかしあの頃、勉強も運動もよくできたし、何しろ一緒にいて楽しかった。思春期の真っ只中で、親しくなれた女性は彼女だけだった。
 片思いだった。
 「誰もいないテーブルにいてもつまらないよ」
 そう言って、彼女が隣の席に座る。手に持っているワイングラスを高く上げたので、僕はビールジョッキを持って「チン」と音を鳴らした。
「久しぶり。だいぶ渋くなったね。独身だって?」
 彼女が笑いながらそう言うと、あたりを見回した。
「三組はあと誰が来てる? ササキくんとよく一緒にいたタニくんは?」
 あいつは仕事が忙しいみたい、と僕はマツモトケイコに言った。
「あの人確か、高校入ったら、暴走族になっちゃったよね」
 うんまあ、と僕は会話が広がらないように口を濁した。彼のことで話し出すとキリが無くなりそうだった。


ここから先は

1,962字

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?