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Rider's Story 約束の場所
割引あり
バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ
武田宗徳 オートバイブックス 収録
ツーリングマガジン・アウトライダー 2005年6月号 Vol.12 掲載作品
ゆっくりと、しかし力強くペダルをこいで坂道を登っていく。全身を右に左に動かして、山道を進む。額、こめかみ、耳の裏側からも、顎に向かって汗が流れ、落ちる。疲れがきて無意識に頭が下がってくるが、直哉はそのたびに歯を食いしばって前を向きなおす。約束の場所まで、あと半分だった。
いったん坂道が終わり、平らな地面の木陰で、直哉はマウンテンバイクを降りて、ガードレールに立てかけた。首に巻いてあるタオルで顔全体の汗を拭くと、リュックからペットボトルの麦茶を取り出し、一口飲んだ。そして、また汗を拭く。
まわりは静まり返っている。直哉は目をつむった。鳥の鳴き声、川の流れる音が、無限の空間を作り出した。
半年前はこの場所で、足の痛みからこれ以上進むことを諦めた。今日の挑戦は最初から数えると、五回目だった。まだ一度も、約束の場所にたどり着けないでいる。最初の挑戦のときは小学生だったが、今はもう中学生になっていた。あれから体力をつけ、自転車の乗り方も勉強した。今日は足も痛くないし、いけそうだ、と思った。
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