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Web3.0時代の法制度はどうなっていく?6〜7月の国内動向まとめ

Web3.0は、新たな経済活動のフロンティアです。インターネットやWebに関わる産業や企業にとって、Web3.0を巡る技術革新やビジネス実態、政策に関心を払わざるを得ない状況が続くと思われます。

スタートアップにおいても、Web3.0は、既存企業のシェアを奪い、業界の構造を劇的に変える革新的なイノベーションの可能性がある領域として、非常に大きな注目を集めているところです。

Web3.0を取り巻く、税・会計・法制度・知財などの国内制度はどうなっていくのでしょうか?今年6月〜7月に公開された政府資料や参考情報をもとに、Web3.0を巡る課題や政府の動きなどについて概観してみたいと思います。

なぜWeb3.0が注目されているのか?

Web3.0とは、ブロックチェーンによる技術を基盤として中央集権不在で「個人」同士が自由につながり交流・取引されるWeb社会のことを指します。巨大プラットフォーマーが席巻したWeb2.0時代との対比において、地理的制約や資源制約に縛られないサイバー空間における新たな経済活動のフロンティアとなり得るとして期待されています。

2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(以下「実行計画」といいます。)において、4つの重点投資対象のひとつに「GX及びDX」があげられていますが、このうちDX投資のひとつとして、一極集中管理の仮想空間から多極化された仮想空間へ必要な環境整備を図るとされています。

この多極化された仮想空間において、暗号資産やNFT(Non Fungible Token)などのトークンを基盤とし、ブロックチェーン上で個人がデータを管理・活用して新しい価値を創出する動きが広がっています。

Web3.0の紛争や課題はもう現実になっている

今年に入ってエルメス、ナイキなど国際ブランドが商標権侵害など理由に販売者を提訴したとの報道や、大手NFTマーケットプレイス「OpenSea」が不正コピー防止システムを導入したとのニュースに触れた方もいらっしゃると思います。

Web3.0を巡っては、日々新たな技術やサービスが生まれている状況において、税・会計・法制度・知財などの国内制度がビジネス実態に追いついていないとの指摘もあり、政府においても規制と振興のバランスに留意しつつ、アジャイルな対応が必要であると自覚されています。

現行制度の論点としては、以下のようなものが指摘されています。

  • 税について、企業が発行・保有するトークンが含み益とみなされて法人税の課税対象となっており、特にキャッシュ不足のスタートアップにとっては資金調達及び意思決定プロセスにトークンを用いることが困難にあることや、個人の暗号資産による収入が雑所得とみなされ最大55%の総合課税対象(株式のキャピタルゲイン課税は約20%)になること。

  • 会計について、暗号資産に係る会計基準が曖昧であるため、暗号資産を保有する企業が監査法人によるチェックを受けられず適正意見が出ないことや、上場企業の参入が困難であること。

  • 法制度について、多くのVCが投資事業有限責任組合(LPS)形態のファンドを組成してスタートアップに投資を行っているところ、LPS法上、投資対象として暗号資産やトークンが明示されていないこと。

  • 知的財産について、他人が制作したコンテンツを第三者が無断でNFT化する事案が発生することや、NFT・メタバースに係る権利関係の整理が途上であること。

Web3.0を巡る現行制度の論点は、既に現実的な紛争や課題に至っているのです。

Web3.0に関連する政府の動き

骨太方針と実行計画における政策決定

2022年6月7日に閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)及び実行計画においては、分散型のデジタル社会の実現に向けて必要な環境整備を図ることが政策として掲げられました。

DXは、新しい付加価値を生み出す源泉であり、社会的課題を解決する鍵とされています。

クリエイターエコノミー調査等の実施

2022年7月5日、経済産業省は、「Web3.0」や「メタバース」におけるクリエイターエコノミーの創出及び拡充に向けた調査・整理・議論・実証をおこなうとして、「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る調査事業」を開始しました。

Web3.0を進展させるにはクリエイターやクリエイターエコノミーが必要不可欠であるとして、主にクリエイター観点から法的課題を明確化する動きです。

具体的には、Web3.0やメタバース空間における①法的論点の調査・整理、②海外事例の調査、③研究会による議論等について、実際に経済産業省がメタバース実証空間を設置し、これらの論点整理を行っていくとされます。

Web3.0政策推進室の設置

2022年7月15日、経済産業省は、省内各局に分散しているWeb3.0関係課室等が一体で政策立案を行うチームとして、大臣官房に「Web3.0(ウェブ・スリー)政策推進室」を設置しました。

Web3.0政策推進室では、海外での事業環境や、国内での事業環境課題について事業者、投資家、法曹、エンジニア等から情報収集を行い、関係府省庁と協力してWeb3.0に関連する事業環境整備に取り組むとしています。

Trusted Web ホワイトペーパーVer2.0の公開

2020年6月16日にデジタル市場競争会議がとりまとめた、「デジタル市場競争に係る中期展望レポート」(以下「中期展望レポート」といいます)に基づき設立され「Trusted Web推進協議会」において、2022年7月25日付けの「Trusted Web ホワイトペーパーVer2.0(案)」が公開されています。

Trusted Webは、インターネットにおける新たな信頼の枠組みです。必ずしもWeb3.0と軌道を一にするものではありませんが、分散型で検証可能な部分を広げることを志向しているという意味での方向性は共通しています。DX推進の前提となる事業者間連携の円滑化のために極めて重要な取組として、DX投資の主要な内容となっています。

現行のインターネットやWebについては、フェイクニュースなど流れるデータの信頼性への懸念やそれに伴う社会の分断、プライバシー侵害リスク、サイロ化した産業データの未活用、勝者総取りなどによるエコシステムのサステナビリティへの懸念、ガバナンスの機能不全などが指摘されており、社会活動において求められる責任関係や安心を十分に体現できていません。

サイバーとフィジカルが高度に融合するSociety5.0におけるデジタル社会においては、特定のサービスに過度に依存せずに、データのコントロールや合意形成、トレースの仕組みを取り入れ、検証できる領域を拡大し、Trust(「事実の確認をしない状態で、相手先が期待したとおりに振る舞うと信じる度合い」)を向上していく仕組みが必要とされています。

今後の注目ポイント

この点、個人的な関心としては、Web3.0の利用におけるガバナンスがどのように設計されるのかに注目しています。

折しも2022年10月1日に改正プロバイダ責任制限法が施行されますが、インターネット上での誹謗中傷やプライバシー侵害、商標権侵害、著作権侵害などの権利侵害の問題は深刻です。

サイバー空間における行き過ぎた行為に対して社会規範をどのように機能させることができるのか、非集権的であるWeb3.0独自の考慮も必要に思われます。

この問題は、必ずしもブロックチェーン技術や中央集権不在であることの影響を受けるものではありませんが、状況によっては、改ざんに対する堅牢性やガバナンスの在り方が、法制度の執行を困難にすることも想定されます。

政府の役割をどのように組み込んで法制度の執行を機能させていくのか等、実効的なガバナンスがどのように取り込まれるのか注目されます。

以上

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西尾公伸 / Authense法律事務所 Managing Director

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