最近流行している「サブディレクトリ貸し」は、貴社にとって本当にメリットがあるのか?
SEO対策、悩ましいですよね。良質なコンテンツを生み出し、定期的に公開していくことが最良の策と分かってはいても、それが一番難しい。私自身も痛感しています。
また、少しでも自社の売上は上げたいですよね。日本経済がシュリンクしていく中、全世界を襲ったコロナ禍でどの業界も大きなダメージを受けています。
「手軽に検索エンジンで上位表示させたい。」
「少しでも売上を上げたい。」
この両者の思惑が合致して、近年爆発的に増えているのが「サブディレクトリ貸し」です。果たしてこのサブディレクトリ貸し、貸す方には本当にメリットはあるのか、法的リスクはあるのか、概説してみます。
SEO対策の新潮流?「サブディレクトリ貸し」
あらゆるビジネスにおいてインターネット上での宣伝、マーケティングは欠かせなくなりました。
料金を支払って検索エンジン上で上位に表示させるリスティング広告はもちろん、TwitterやInstagram、Tik TokやLINEといったSNS上での広告展開が行われています。
検索エンジンで上位に表示させる手法として、長年研究が進められているのがSEO対策です。
特にネット検索で世界の覇権を握っているGoogleでキーワード検索を行った際、上位に表示されるかどうかかはビジネスの成否を左右するといっても過言ではない重要事項。
どんな手を使ってでもGoogleで上位表示させたいWeb制作側と、ユーザーが求める良質なコンテンツを優先的に表示させたいGoogle側との間で、熾烈な「いたちごっこ」が繰り返されてきました。
近年、話題になっているSEO対策のひとつに「サブディレクトリ貸し」があります。
それ自体自体は古くからある手法のひとつではありますが、2021年あたりから急増しているとのこと。では、一体どのようなものなのでしょうか?
サブディレクトリ貸しが急増している理由
「サブディレクトリ貸し」とは、すでにGoogleから高く評価されているWebサイトを持っている大手のメディアや有名企業が、その公式サイトの一部を第三者に貸し出し、レンタル料金を徴収するビジネスを指します。
多くのケースでサブディレクトリで区切ってレンタルしているため、このように呼ばれています。
借りる側はすでにGoogleから高く評価されているサイトの力を借りることで検索上位に表示されやすくなります。
貸す側はレンタル料を徴収することで金銭的なメリットを得られる上に、もしも貸した相手先のサイトが多くの流入を集めれば、本体の公式サイトにも好影響を与える可能性があります。
一見、貸す側も借りる側も、双方にとって良いことづくめに見えるこの施策ですが、あまり推奨されていないどころか思わぬ落とし穴も潜んでいる可能性があります。
サブディレクトリ貸しに潜むリスク
目先のレンタル料に惹かれてレンタルした際のリスクのひとつは、「レンタル先のメディアの質をコントロールできないこと」です。
他社が運用しているサイト内で、事実と異なる表現が含まれている、他者を誹謗中傷している内容が見られるといった悪質なコンテンツが公開されてしまった場合、貸している自社もユーザーから批判にさらされる可能性があります。
並行して、ユーザーから非難されるリスクだけではなく、悪質なコンテンツを運用していると判断されればGoogleなどの検索エンジンからの信用も損ない、レンタル元のドメインにもSEO的に悪影響を受ける可能性もあります。
そもそもGoogle自体が推奨していないという現実もあります。
2021年3月25日に開催された「Google検索オフィスアワー」でも、サブディレクトリ貸しについて次のように言及されています。
このやり取りからも、Googleは今後より具体的な対策を取っていくことを示唆しているようにも思われます。
サブディレクトリ貸しは法的にも問題あり?
続いてサブディレクトリ貸しについて、法的な観点から見ていきます。
サブディレクトリ貸しは、違法なのでしょうか。
結論から申し上げますと、現状、サブディレクトリ貸しを行ったとしても、貸した側も借りた側もそれ自体について法的責任を問われることはないでしょう。
ただ、借りた側があまりに極端な形でユーザーに誤認させるような手法を取り、そのためにユーザーが何らかの損害を被った場合、ディレクトリを貸した側が責任追及される可能性はあるかもしれません。
たとえば次のような例です。
サブディレクトリ貸しで責任追求される想定事例
上質なクオリティで消費者から高い評価を集めている商品を提供しているA社の公式サイトのディレクトリ下に、B社がアフィリエイトサイトを展開しました。
B社のアフィリエイトサイトは、サブディレクトリ貸しの成果で検索上位に表示されるだけでなく、A社の公式サイトのデザインを模倣しており、ユーザーにはA社が運営しているサイトのようにも見えます。
ところが、B社のサイトで販売される商品は質が低くクレームが殺到。A社はその状況を知りながら、何らの措置もとっていませんでした。
この場合、ユーザーはA社に対して損害賠償など法的責任を追及できる可能性があります。
サブディレクトリ貸しとは直ちに結びつくということではありませんが、インターネット上で集客力を有し営業の機会を提供する企業とそれを利用する企業とが協働して営業行為を行う場合の消費者に対する法的責任について参考になる考え方として、2019年12月に経済産業省が公表した「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」に、次のような記載があります。
Q店舗との取引で損害を受けたインターネットショッピングモール(以下、「モール」という。)の利用者に対してモール運営者が責任を負う場合があるか。
(例)モール利用者が、モールに出店していた店舗から商品を購入したところ、商品に欠陥があったが、店舗は行方不明となり連絡が取れない。モール運営者に対して、損害賠償を請求することができないか。
この問いに対して「個別の店舗との取引によって生じた損害について、モール運営者は原則として責任を負わない。」との回答に続いて、例外として責任を負う可能性があるケースとして次の例を挙げています。
<責任を負う可能性がある例>
①商品購入画面等モール運営者のウェブサイト画面で、売主がモール運営者であるとの誤解が生じうる場合
②モール運営者が特集ページを設けてインタビュー等を掲載するなどして、特定の店舗の特定商品を優良であるとして積極的に品質等を保証し、これを信じたがためにモール利用者が当該商品を購入したところ、当該商品の不良に起因してモール利用者に損害が発生した場合(最高裁判例)
③重大な製品事故の発生が多数確認されている商品の販売が店舗でなされていることをモール運営者が知りつつ、合理的期間を超えて放置した結果、当該店舗から当該商品を購入したモール利用者に同種の製品事故による損害が発生した場合(チュッパチャップス事件)
売主がモール運営者であると誤解を生じさせた事例および関連する会社法の定め
①について、「サブディレクトリ貸し」とは違い、実際のリアル店舗でのケースですが、参考になる最高裁判例があります。
こちらの判例では、スーパーマーケットに出店しているテナントと買物客との取引に関して、商法二三条の類推適用によりスーパーマーケットの経営会社が名板貸人と同様の責任を負うとされました。
※最高裁平成7年11月30日第一小法廷判決・民集49巻9号2972頁
また、①の「売主がモール運営者であるとの誤解が生じうる場合」については、会社法で次のように定められています。
サブディレクトリ貸しを行ったからといってそれ自体により直ちに法的責任を負うことはないと思われますが、利用者が誤解するほどにレイアウトを似せたり、コンテンツで誤読を誘導させる場合、貸手の関与の態様次第では法的責任を問われる可能性がありそうです。
モール側の責任を示唆した「チュッパチャップス事件」
③についても有名な判例があります。
通称「チュッパチャップス事件」と呼ばれるこのケースでは、インターネットショッピングモールで棒付きキャンディ「チュッパチャップス」のロゴ入り商品を無断で販売され商標権を侵害等されたとして、イタリアの企業がサイトを運営するモールを提訴しました。
結果、一審および控訴審いずれでも、原告の訴えは棄却されたのですが、控訴審における判断の理由のひとつは、商標権侵害等の指摘を受けて速やかにモールが出品者のサイトを削除したことがあると考えられています。
※知財高裁2012年2月14日判決(平成22年(ネ)10076号)
つまり、指摘を受けてもモール側が対処を怠った場合、商標権の侵害等を理由に損害賠償等の法的責任を負う可能性があるということです。
持ちかけられても断るのが無難
ディレクトリ貸しを行ったことで法的責任を問われるケースとして指摘した上記の例はかなり悪質で、知らずに巻き込まれることはまずないと言ってもいいでしょう。
しかし、自社のブランドを毀損する恐れがある、SEO的にも悪影響を受ける可能性がある、Google自体が否定しているといった観点から見ても、やはりおすすめできる手法ではなさそうです。
SEO対策業者やコンサルタント、貴社の取引先からディレクトリ貸しを求められた場合、レンタル料と天秤にかけて本当に貴社にとってメリットがある施策なのか、じっくりと考えてみる必要はあるでしょう。
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西尾公伸 / Authense法律事務所 Managing Director
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