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無駄なことだと切り捨てる前に【役に立たないことを楽しむ贅沢】
「役に立たないことだからやめておこう」
「役に立たないもの」として切り捨てたことってありませんか?
私は医師としての仕事をする一方で、陸上競技にも取り組んでいました。
2021年には当時の日本記録を樹立し、東京五輪では日本代表に選出されました。
そんな私を見てこう思う人はいることでしょう。
「無駄なことをせず勉強にも陸上にも効率的に取り組めたから、医師をしながらオリンピアンになれたのだろう」
しかし、私の人生は効率的・最短距離には程遠いものでした。
たくさんの寄り道をしてきたと思っています。
しかし、寄り道をしてきたことに後悔はありません。
一見無駄に見えるものにこそ、人生の豊かさが詰まっていると私は思います。
本記事を通して「役に立たないもの」に向き合う姿勢を、ちょっとだけ見直すきっかけにしてもらえたらと思います。
私はこれまで、「役に立たないこと」にいろいろと手を出してきました。
いや、むしろ「役に立たないこと」に全力を注ぐことが、自分にとっての本質だったのかもしれません。
高校時代、私は文化祭の準備に1年間を費やしました。
受験の天王山と言われる夏休みも、勉強の合間に文化祭の企画に没頭していました。
クラスメイトとアイデアを出し合い、ビデオを撮り直し、下校時刻ギリギリまで準備を続けた時間。
そのすべてが、かけがえのない思い出です。
大学時代も同じでした。
医学を学ぶ傍ら、教養科目に没頭しました。
内職をしたり、単位を取るための勉強をする学生が多い中で、私はあえて最前列の席に座り、講義を全力で楽しみました。
文学、芸術、歴史──どれも医学の専門知識とは直接関係ないものばかりでしたが、それが何とも言えない充実感を与えてくれました。
陸上なんて最たる例かもしれません。
陸上競技がその後の医師の仕事に役立つのかと言われたら、YESとはなかなか答えられません。
陸上にかけた時間と労力を医学に注ぐことができていたら、今よりずっと膨大な医学知識や経験を蓄えられていたはずです。
これらの経験は、直接的には「役に立つ」とは言えません。
学校行事も、教養科目も、陸上も、未来のキャリアには関係のないものです。
それでも、なぜ私はそこまで夢中になれたのか?
それはただ、楽しかったから。
それだけです。
おもしろそうだからやってみる、楽しそうだから全力を注ぐ。
それが私の原動力でした。
そして、その原動力が、私の10代、20代の時間をこれ以上ないほど充実したものにしてくれました。
「役に立つ」ものだけを求める現代
今の社会では、「役に立つ」ものだけを選び取る傾向が強いように思います。
忙しい日常に追われる現代人は、あれこれ手を出す余裕がなく、「効率」を重視する行動を選びがち。
勉強のためだけに本を読む。
話題についていくためだけに映画を倍速で観る。
健康のためだけに運動する。
これらはすべて目的を達成するための手段であり、行動そのものを楽しむ姿勢が欠けているように見えます。
YouTubeには、本の要約を伝える動画が溢れています。
しかし、その実態はあらすじを把握するだけということも少なくありません。
本来の「読む喜び」が失われているのではないでしょうか。
人生を豊かにする「寄り道」
しかし、「役に立たない」ものにこそ人生を豊かにする力が潜んでいると私は思います。
たとえば、
文化祭の準備で学んだ「チームで何かを作り上げる喜び」や
教養科目での「好奇心に基づく知識の探求」、
陸上の「目標に向けて逆算していく力」は、
意識していなくとも私の価値観や人間性を形作っています。
医師としての未来にどう活きるかはわかりません。
しかし、「役に立たないから意味がない」という考え方では得られないものがあるのです。
人生は短く、何でもかんでも役に立つものだけに絞り込んでいたら、味気ないものになるでしょう。
遠回りや寄り道をすることで、予想もしなかった発見や経験を得られることもあります。
私はその「寄り道」の中にこそ、人間らしさや豊かさがあると信じています。
あなたの過去の経験の中にも、一見役に立たないと思ったものが、後になって価値を持った瞬間があるのではないでしょうか。
あるいは、役に立たないと思いながらも、心から楽しんだ思い出があるはずです。
それらは、実はあなたの人生を支える土台の一部なのかもしれません。
だからこそ、私は「役に立たないこと」にもっと目を向けてほしいと願います。
それはきっと、人生の厚みを増し、心を豊かにしてくれるはずです。
役に立たないことを楽しむ贅沢
それこそが、私が大切にしてきたものなのです。
そして、これからもそうありたいと願っています。
効率だけを求めず、寄り道の中にこそ見つかる豊かさを楽しんでいきたいと思います。
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