オーストラリアのコロナウィルス
今や世界中で猛威を奮っているコロナウィルス。
こちらで話題になり始めたのが1月中旬から後半頃。「なんだか怖いウィルスがあるらしいねぇ」なんて対岸の火事のような雰囲気だった。それが、あれよあれよという間に「やばくね?」という雰囲気に変わり2月頭には「マジやべぇ」になっていた。
オーストラリアでは学校の新年度は1月末に始まる。
今年は1月28日が初登校日となりドキドキ・ワクワク進学、進級する子どもたちと、やっと長い夏休みが終わりほっとする親たちのフレッシュスタートの中に不穏な空気が流れ始めた。特にこちらには中国からの移民や留学生がわんさかいる。当然保護者の間に不安が押し寄せる。
しかし、このときのオーストラリアの対応は早かった。
日本が武漢に誰よりも早くチャーター便飛ばし、中国にマスクや防護服を送ってドヤ顔している間、オーストラリアでは速攻で中国人観光客の入国禁止を敢行していたのだった。中国では春節を迎え、通常ならチャーター便を飛ばして押し寄せてくる中国人観光客の姿が消えた。そして、国民に対し直近14日以内に中国本土への渡航歴のある人は家から出てはいけないと。
学校は、夏休みが終わり新学期が始まったばかりなので焦った。そして特に中国人学生へ一人ずつ面接して夏休み中に中国へ行っていなかったかを確認にしていった。
さらに、中国からチャーターで帰国させたオーストラリア人及び外国籍の永住者はオーストラリア本土ではなく、まずクリスマス島14日間収容し検疫を受けてから帰宅することになった。
このあたりの情け容赦なくもすばやい対応に感心していたが、それでも2月の間に15人程の感染者が見つかった。しかしいずれも中国への渡航歴のある人や、ギリギリ入国禁止をすり抜けた観光客だった。
その後数週間、中国はもとより韓国、イタリア、イラン、日本と世界中で感染者、死者を激増させている中、こちらでは新たな感染者が増えるわけでもなくむしろ去年から延々と続きようやく収まった山火事の被害や、その山火事を鎮めてくれた恵みの雨が今度は降り止まずに各地で洪水の被害を引き起こすという泣きっ面に蜂のニュースがメインだった。
風向きが変わったのは、あのダイヤモンド・プリンセスから陰性の判定を受け170人のオーストラリア人が帰国してからだった。
というか、下船させてそのまま帰宅させる日本の対応に対しオーストラリアのどのメディアも猛烈に批判していたのだが。いずれにせよチャーター便で帰国したオーストラリア人はまずダーウィンに収容され検査を受けた。
そして日を追うごとに、一人、二人と感染者が見つかっていく。
結局10人が感染していることが判明し、それぞれ自宅近くの病院へ搬送、隔離された。
それを皮切りに、とは言ってもダイヤモンド・プリンセスとの直接の関係はないが、その時期ノーマークだったイランへの渡航歴を持つ人の感染が判明。しかも症状がでるまでに美容師として数十人に接客していた。そして、イタリア、シンガポール、アメリカ、日本と中国以外の渡航歴のある人達の感染が見つかり、いよいよ3日前には海外渡航歴のない老人ホーム職員の感染が発覚し、しかもその職員が担当していた老人がコロナウィルスで亡くなった。
そしてなんと、日本だけでなくオーストラリアの大都市でもスーパーの棚からトイレットペーパーが消えた。
トイレットペーパーだけでなく、テッシュ、紙おむつ、赤ちゃんのおしりふき、更には赤ちゃんの粉ミルクまで。
こちらでは、普段マスクを付ける習慣がないのでスーパーにマスクは売っていない。粉ミルクはわからないが、紙製品が手に入らなくなるという噂が広まったのだと思う。そしてトイレットペーパーがなくなれば赤ちゃんのおしりふきで自らの尻を拭こうという算段の人も多いらしくニュースで必死にそれは止めてくれと訴えていた。
人間だから不安になるのもパニクる精神状態も悪いとは思わないが、赤ちゃんのおしり拭きまで買い占めてしまったら本当に赤ちゃんのいる人が困るじゃないかと憤りを感じる。まさかいい大人が非常食として粉ミルクを買っていないことを願うばかりだ。
現在ではオーストラリアにおけるコロナウィルス感染者数は52人、死者2人。そして数字は毎日確実に増え続けている。
相変わらず永住者以外の中国人の入国は禁止しているが、それにイランも加わった。
そして渡航に関してもこの2つの国は現在レベル4の退避勧告に引き上がっている。オーストラリア外務省は他にも、イタリア、韓国、日本、モンゴルをレベル2(不要不急の渡航は止めてください)に定めている。
ただ、観光客の出入国は制限できてもこの国は移民で成り立っているようなものだ。国籍保持者と永住者は入国してもいいが、14日間は家から出るなということになっているけれど、誰かがそれを監視しているわけではない。
そして、これまで北半球の国々ほど爆発的な拡大がなかったのは国策がよかったというよりは、南半球は夏だったという理由も大きい。そして頼りの中国人観光客の来ない観光産業大国オーストラリア経済はすでに困窮している。長い間の日照りと凶作、山火事、サイクロン、洪水被害、そしてコロナウィルスと踏んだり蹴ったりだ。ましてやコロナウィルスなんて得体が知れない。インフルエンザのほうが感染率や致死率が高いんだから怖がるのはおかしいという声もあるが、コロナウィルスは得体が知れないから不安になる。
オーストラリアとか日本とか関係なく、今世界中の研究者たちが、この得体のしれないウィルスに打ち勝つために必死に研究を重ねている。世界中の医療従事者も真正面からこの得体のしれないウィルスと戦っている。
不穏と不安がはびこる中で私達ができることは、マスクの奪い合いや転売でもうけることでもなく、またトイレットペーパーや粉ミルクまで買い占めることでもないと思う。
パニクったところで何も変わらないのだとすれば、私たち一人ひとりが手洗い、消毒、うがいを徹底するなり、通勤でやむを得ない以外はできるだけ人混みを避けるとか、個人が出来得る限りの防衛に講じるしかないのだと思う。
そしてこういうときこそ、自己中心的な考えのせいで本当に必要なとろこに必要なものが行き渡らない、そんなことのない世の中であってほしい。
そして一日も早くこの得体のしれないウィルスの猛威が収束することを願ってやまない。