【備忘録】フォークと櫛、先に発明されたのはどっち?
1. 動機
人類の歴史において、身近な道具が思わぬ発明の種となることは多く見られる。既存の物の使用法を変えることで何らかの問題解決ができることに気づくことがある。それが発明である。
ただの平らな木の板を見て、食材を切るときに下に敷けば便利だと思いつくと、まな板の発明である。
そろばんを見て、ローラースケートができて楽しそうだと思いつくのも発明である。
ディズニー映画『リトルマーメイド』では、主人公の人魚アリエルがフォークを櫛に見立てて髪を梳かすシーンがある。この場面は、異なる目的で発明された道具が、生活様式の違いや知恵によって新たな使い方を見出される様子を象徴的に示しているように筆者は感じた。
そこでふと、フォークと櫛という、使い方が全く異なる道具が、形状と機能において影響し合っていた可能性はあるのか?また、独自に発展してきたのか?という疑問が生じた。
ふと疑問に思ったことを気軽に調べられるのは、現代人の特権である。
2. フォークと櫛の形状と機能の共通点
まず、フォークと櫛はその形状において幾分の共通点を持つ。
どちらも「柄」と「歯」を持ち、これらの歯によって特定の物を整える、もしくは掴む機能を発揮する。例えば、フォークは歯を用いて食材を突き刺したり、掬い取ったりするのに対し、櫛は歯の部分で髪を解きほぐし整える、また装飾品としての櫛は髪に差して用いる。これらの道具はそれぞれ異なる目的で使用されるが、その基本的な構造には類似点があるため、互換的な利用が想像しやすい道具であるとも言える。
3. 歴史
歴史的・文化的背景を見ると、これらの道具が同一の起源を持つわけではない。
櫛は古代エジプトや中国、メソポタミア文明などで、少なくとも紀元前3000年以前(調べた文献によって最古の櫛の時代は異なる)から発見されており、個人の衛生(汚れやシラミを取る道具)や身だしなみ、儀式のために用いられてきた。
一方、フォークの原型は比較的後の時代に登場する。フォークに似た道具は古代中国、古代ギリシアやローマでも使用されていたが、主に料理中に食材を扱うため、または給仕用のものだったとされている。食事用のフォークが使われ出したのは中世ヨーロッパの後期(11世紀から14世紀ごろ)で、広く普及したのはルネサンス期以降(16世紀ごろ)である。
しかし、聖書にもフォークの原型と見られる道具が登場することから、紀元前から使われていた可能性も否定できない。
4. 影響の可能性
形状が似通っているという点で、フォークと櫛が互いに影響を与えたかという問いには、歴史的な証拠は見つかっていない。櫛の基本形状は、機能を果たすためにシンプルな歯が並ぶデザインであり、フォークもまた、食材を刺して運ぶ機能に合わせてそのような形状に発展したと考えられる。いずれも個別の文脈で形状が確立されたため、実際には両者が相互に影響しあって形状が決定されたわけではない。フォークの形状が本格的に整えられた16世紀以降、徐々に一般化していったが、主に西洋文化に限定されていたため、櫛とフォークの形状が影響しあった可能性は低い。