モデレーションの哲学
クライアントの課題を対象者にインタビューし、それを分析して報告するのがモデレーター、モデレーションの役割である。
モデレーションをクライアントと市場(消費者)をつなぐ媒介項とし、モデレーターは双方向性ベクトルを意識してインタビュー、分析する。
<モデレーションのポジション>
マーケティング執行機関としての企業・自治体と消費者を主要なノードにとするネットワークである市場、この「企業と市場を結ぶ媒介」としてモデレーションは存在すると仮説する。
企業と市場を結びつける媒介項であるモデレーションは会話(発話)で双方向のコントロールを行い新しい知見を得る。
モデレーションは、企業から市場(消費者)へのベクトルと消費者(市場)から企業へのベクトルの双方向性を意識すべきである。
ただ、モデレーションもビジネスなので、企業寄りのポジションになる。
<情報とおカネの流れ>
両者を行き交う情報とおカネの流れがそうさせている面がある。
企業側の「わからない。知りたい」ことが起点になって市場調査、FGIはスタートする。わからない内容、つまり、背景と目的、さらに、期待アウトカムをモデレーター(調査会社)に伝え、それをモデレーターがスクリプトにし、市場の消費者にインタビューして情報を集るという流れがある。
集まった情報の分析が終わると、今度は逆向きに情報(報告書)が流れ、起点の企業にたどり着く。その知見を元に企業はマーケティング施策という市場介入を行う。これの繰り返しがマーケティングとマーケティングリサーチの関係である。
費用(おカネ)の流れは企業の調査予算から調査会社に支払われ、調査会社は謝礼を消費者に支払う。この流れは線形でわかりやすいが、市場で消費者が当該企業の商品・サービスを購入し、それが売上、利益になるおカネの逆流は分散が大きく、個々の経路は明確ではない。
この情報とおカネの流れが、モデレーションのベクトルが企業から市場(消費者)への片方向性になる原因である。
<モデレーターの位置取りの双方向性>
企業と市場(消費者)の媒介項であるモデレーションは双方向のベクトルを意識して仕事をする。これはモデレーションの倫理と言える。
モデレーターにはマーケティング知識が必須であるし、クライアントのマーケティング特性、企業文化への理解・知識も必要である。
もう一方は市場の知識であり、消費者を重要なノードとする市場のネットワーク構造、流通や売場、ECサイトを理解する。さらに、現在の消費者がどのような意識と行動で市場と関わっているかの認識(仮説)も持つことも大切である。
FGIの企画段階は企業側とだけ情報交換するので、必然的にモデレーターは企業と同じベクトルで思考、行動する。
この方向性を抱えたまま、スクリプトを作成し、インタビューに望むと高圧的、尋問的、追及型なモデレションになる危険が大きくなる。
「クライアントのために早く良い答え」を探そうとの意気込みの強さは、片方向のベクトルであるとの認識もなくしてしまう。
クライアントも「ウチのために一生懸命深堀りしてくれた」と評価する場合が多いので、モデレータは自分のポジションの偏りに一層気づかない。
このまま進むと、市場(消費者)の声を聞く体裁を取りながら、自分達のナラティブだけで、間違った、あるいはズレた結論にたどり着く。
インタビューだけならこの結論でいいかもしれないが、市場の実態から離れてしまっているのではないか、との疑問が解消されない結論になる。
これを防ぐためには片方向に働くベクトルを双方向性に働かせるようにする。
方法はいろいろあるが、まず、インタビューに入る前に、それまでとは逆の視点、つまり、市場(消費者)の立場でスクリプトを見直すことである。
さらに、消費者の意識は、当該の商品ジャンル、企業、製品を越えて大きく広がっており、生活全般をカバーしているという事実を考える。
だから、消費者・対象者のテーマへの興味・関心も自然状態では極めて弱く、インタビュー会場に集められて強制されて始めて起動する興味関心である。
これら、逆向きのベクトルでスクリプトを見直し、モデレーターの視点を企業(クライアント)と市場(消費者)の中間に据えることを心がける。
*第7期定性調査カレッジでも取り上げます。 ぜひ、ご参加を。
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