塔の若葉摘み 二葉 ~塔 2024年12月号より~
椎本阿吽です。塔12月号の若葉集の評を書きます。
1月号が届いている時期に、前号の評とは何とも周回遅れになってしまいました。若葉も成長してしまいます。色々ありまして後手後手になってしまいました。次はもっと早く書こうと思います。
余談ですけれど、1月号の表紙すごい綺麗ですよね。包装から出した時、そこにだけ春がやってきました。
ブランコを降りた後もブランコはしばらく揺れて春も揺れてる
漕ぎながら降りて、余韻で揺れているブランコ。しばらく、と書かれているから、ただ揺れているブランコを眺めている状況ののどかさが素敵です。春は、ブランコの順番を待っていたのでしょうか。
あの夏を忘れましたかわたしたちドードー鳥のつがひでしたね
運命を強く感じる一首でした。あの夏、というワードも遠くを思い起こされますが、ドードー鳥という絶滅してしまった鳥が出てくると、その遠さは果てしなく、くらりとします。
設計図はちさきあたまのなかにあるわが子の指示で折り紙を切る
折り紙を折って切り絵でも作りたいのでしょうか。私も子供と接することがあるのですが、子供は結構こっちに何も伝えないでとにかく何か頼むことが多い気がします。そんな子供のイメージの強い良い歌です。
木ねじをはずすみたいに軽々と取り外されたわが大臼歯
木ねじという比喩がばっちり決まってると感じました。あの平たくて広い大臼歯、そして抜かれた後にぽかんと空いた穴の大きさも感じられます。軽々と、というところにも、歯が抜かれるときの呆気なさがあって良いですね。
連行のときにあなたが見せた笑顔はスノードームの永遠でした
連行のとき、という衝撃的な状況から始まり、あなたが見せた、以降は一息に読む音数であなたの笑顔が説明されています。その途切れなさが、連行する時の容赦なさを感じさせ、スノードームという優しい言葉と合わせて絶妙なバランスを取っています。
誘われて断りたいが誘われずネットニュースを読み直してる
このいじらしさ。いいですね。必要とされてることを分かった上で断りたいという主体の考え方がかわいいです。ネットニュースを読み直すという、絶妙にだらだらと真面目の境を漂うような行動もまた面白いです。
画板持つあなたの瞳に浮く夏の彩度が高くありますように
高くありますように、という下の句が印象的でした。瞳を覗けば高いかどうかはすぐわかるのに、このように祈りの言葉にしているということは、きっと主体はあなたの瞳を見れないのですね。愛らしいです。
重力を思い出にして 天国は浮いてばかりの日々になるから
なるほど、と納得した歌でした。そうなんだ。天国って重力が無いんだ。確かに、重力があれば雲を突き抜けてしまいそうですね。このアドバイスができるということは、主体はもう天国にいるのだ、と考えられるのも切ないです。
台風に急かされながら目の端のきっといらない乾電池たち
避難でしょうか? だとしたら乾電池は必要な気がしますが、何となくいらないと思う気持ちも分かるような。台風なら一日で去ってしまって、乾電池を使うほど長期にならないだろ、というような日常感をこの歌から受け取りました。
「せいよく」とひらがなにすれば綺麗だね お線香の名前みたいね
上の句の展開は結構よく見ますが、下の句がすごい。確かに、筆文字で細く書かれれば、そういう線香が売られていそう。字足らずのリズムも、性欲に対する若干の嫌悪感を漂わせるぶっきらぼうさがあって、効いていると思います。
素敵な歌をたくさん読むと「よし、私もやるぜ」というのと「ひえ、私はできない」というのが体の中で戦って困っちゃいます。今のところなんだかんだ、やるぜが勝ってるので良かったです。
次は1月号の若葉を、今度こそ1月中に摘みに行きます。では。