オウム事件30年/資料追加
2025年はオウム真理教事件から30年目です。リアルタイムで当時を知っている人のほとんどが50歳以上になり、今の若者は、「地下鉄サリン事件」はどこかで聞いたことがあっても、オウム真理教がどういう宗教だったのか、どういう事件だったのか、ほとんど知らないのではないでしょうか。
オウム真理教とその事件については、さまざまな本が出ています。書き手は、ジャーナリスト、評論家、小説家、社会学者、宗教社会学者、宗教学者、哲学者、化学者、そして、被害にあわれた方、刑死した加害者信者、元信者の手記など、多岐にわたっています。
そのなかで、私がオウム真理教とその事件について考えるとき役に立ったものを、リスト的にあげておきます。
オウム真理教を知るために
まず、オウム真理教とはどういう宗教なのかを知るには、宗教学者島薗進さんの『オウム真理教の軌跡』が最適だと思います。全体が63ページとコンパクトにまとめられ、それでいてオウム真理教の宗教世界を立体的にとらえて、元信者の私から見ても事実について間違いがありません。事件後すぐだったから客観性を保った良書が出版されたのでしょうか。数年後には、オウムは破壊的カルト、テロ集団、犯罪集団という「反社会」「悪」という見方が支配して、宗教として正面から論じたものは少なかったように思います。
以下、目次と小見出しです。
一 オウム真理教以前
・信仰世界からとらえる
・新新宗教としてのオウム真理教
・麻原氏の阿含宗入信
・ヨーガ修行とのであい
二 信仰世界の確立
・「解脱」体験と救世主の自覚
・「悟り」の教え
・「悟り」の内向性
・「解脱」のプロセス
・証明の困難な「解脱」
・「悟り」「解脱」から「救済」へ
・呪術的カリスマの強調
三 内閉化する教団
・魂の「救済」から人類の「救済」へ
・「救済計画」とは
・終末予言の展開
・一般社会とのあつれき
・内閉化する思考回路
・マスコミ環境を生きる
・破滅的攻撃の道へ
四 暴力性の顕在化
・強烈な指導者崇拝
・力の尊崇と力の支配
・指導者絶対化の論理
・教団の権力構造
五 自由の果ての破壊
・内向性・内閉性・暴力性
・科学と「マインドコントロール」
・日本宗教史のなかのオウム真理教
・自由の果ての破壊
宗教学者・島田裕巳
宗教学者の島田裕巳さんは、オウム真理教について最も多くの著書があります。島田さんは麻原教祖と複数回会って直接話をしていること、オウム事件の渦中に「オウムを擁護している」という誹謗中傷を受けて、社会的な「死」を経験したことで、宗教学者プラス当事者視点が加わっているところが特徴です。
オウム真理教についての代表作は『オウム真理教事件I武装化と教義』『オウム真理教事件IIカルトと社会』。全体で600ページを超える宗教学者のオウム論は、元信者でも読むのが大変な労作です。オウム真理教事件は、長期にわたる裁判と、その後の13人の死刑執行まで続いたわけですから、島田さんのオウム真理教論は『平成宗教20年史』『「オウム」は再び現れる』などを含めて読む必要があるでしょう。こちらは一般向けで読みやすい。
哲学者とオウム
哲学者森岡正博さんの『完全版 宗教なき時代を生きるために―オウム事件と「生きる意味」』は、オウム真理教に生きる意味を見い出した私たち信者に真っすぐ届く内容です。森岡さんは1957年生まれのオウム世代、事件後すぐに『宗教なき時代を生きるために』(1996年)を発表しました。私は事件の混乱の真っただ中にいて、リアルタイムではこの本の存在を知りませんでした。(前掲の『オウム真理教の軌跡』も、ずいぶん後になって脱会してから読みました。)
2018年の13人の処刑をきっかけに完全版として再版された本書は、「完全版へのまえがき」と「二〇一九年のあとがき」が加わっています。
本書の「オウム真理教と尾崎豊」をめぐっての考察では、カリスマとカリスマ崇拝者たちの相互関係について示唆に富んだ指摘がされています。私は、同じことがオウム真理教の麻原教祖と弟子たちの間でも起こっていただろうと思います。あと、細かいことですが、気になったのは明らかな間違いです。
よく誤解されますが、高橋英利さんはオウム真理教の幹部ではありませんでした。私はオウムの構成員について「幹部」(正悟師以上)「準幹部」(師以上)「出家者」「在家信徒」という大まかな分け方をするのですが、1994年5月に出家した高橋さんは、出家者として修行のキャリアが短く、彼の手記『オウムからの帰還』は、オウム真理教の最末期に出家した青年の記録という位置づけです。
オウム関連本について過去記事
以下の記事でふれている広瀬さんのインターネット上の手記は、死刑執行後に朝日新聞出版から『悔悟 オウム真理教元信徒・広瀬健一の手記』として出版されました。
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