追補 ウィルコ・ジョンソンと赤いピックガードのテレキャスター
昨日図書館に行って、何気なく音楽関連の棚を眺めていたらウィルコ・ジョンソンの自伝が目に留まり、思わず手に取ってしまった。
とても丁寧に書かれた自伝で読みやすく、つい読み進めてしまう。エルビス・コステロの自伝とは大違いだ。
ティーン・エイジャーのころ、ジョニー・キッド&ザ・パイレーツというバンドのミック・グリーンというギタリストに夢中になり、彼が弾くテレキャスターに憧れたこと。60年代に活躍したバンドで、確かにウィルコ・ジョンソンのギタースタイルに似ている。
そして、楽器屋に吊るされたテレキャスターを仕事の休み時間ごとに観に行く日々。すると、テレキャスターはあまり人気がなかったようで、107ポンドだったのが100ポンド、90ポンドと値下げされていく。ついに頭金10ポンドを払って、購入したという。しかし残金を払うまでは現物は受け取れず、支払いカードを渡されて少しずつ返していったが、一向に残金が減らず、当時付き合っていた未来の奥さんのアイリーンに借金してついに手に入れた、とのこと。なので、このテレキャスターのことをアイリーン・テレキャスターと呼んでいたという。しかし40年連れ添ったこの奥さんは2004年に癌で亡くなってしまう。葬式で”Good Night Irene”をみんなで歌うシーンは泣ける。
またウィルコは大学では文学を学び、卒業して国語教師をやっていたとか。シェイクスピアを研究し、詩も書いていたという。ちょっと想像できないが。また絵も書いていて、ドクターフィールグッドのコミックタッチのロゴも彼の作品だという。多才な人なのだ。
リー・ブリローの1994年の葬式についても書かれている。77年ごろに袂を分ってからは一度も会わなかったという。死に目にも会えなかったと。しかし葬式では残ったフィールグッドのメンバーで泣きながら”She Does It Right”を演奏したそうだ。
良い話も載っている。彼は元々ヴァン・モリソンの大ファンだったようだが、ツアー中のある時ヴァン・モリソンの方からウィルコに会いたい、と連絡があったそうだ。ハリウッドのハイアットハウスのバーで待ち合わせて歓談したとのこと。ヴァン・モリソンはとても親切で優しく感じがよかった、と。ウィルコは内心めちゃくちゃ緊張しながらも冷静を装いつつ「俺も昔、君みたいなバンドをやってたんだよ」と言われ、「よく存じております」とガチガチになって答えたそうだ。自然と笑みがこぼれてしまう。
イアン・デューリーのと逸話もおもしろい。彼はよく酒に酔って暴れたそうなのだが、そうなるとバンドのメンバー達が、彼をバーからひっぺがし、ホテルの部屋に連れて帰そうと両手両足を持ってエレベーターに載せようとするのだが、側から見ると障害者を大男が寄ってたかっていじめているようにしか見えず困ったという。
そして、自分の余命宣告。大手術を経ての復活。この本が2017年2月の発売だから、その5年後に亡くなったということになる。
本の冒頭、近年のフジロックでの感極まった心象風景の描写が素晴らしい。最後に観たかった。