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ギターショップ開業 もうすぐ一年

このギターショップを始めるにあたって、少し所信表明めいたものは書いたが、始めてからもう少しで1年近くが経過するので、改めてどんな苦労があったか、どんな感じでやっているのか、書きしるしておこうと思う。もしかしたら似たようなことを考えている人の参考にもなるかもしれないので、少し言いづらいお金のことなども全てオープンにしてみた。ただ、そう言う内容でもあるので今回は課金させてもらうことにした。10円でも良いのだが、最低100円なんですね。


なぜギターショップなのか

2022年の3月に30年働いた会社を54歳で早期退職した。もう会社で働くのは嫌だったので再就職というのは初めから選択肢になかった。希望したところで雇ってくれるところはないと思うが。それで「小さな商い」というようなものを自分で立ち上げたい、と漠然と考えていた。実は元々ギターショップをやりたいと思っていたわけでは無くて、本当は飲み屋とか、カフェとか古本屋をやりたかった。しかし、正直言って何の経験も素養もなく、いきなり始めるにはリスクも大きすぎたし、子供が小学生なのでその面倒も見なければならず、ちょっとハードルが高いな、と思いあぐねていた。

そんなことを悩んでいたら、たまたま僕の昔からの友達が独立して静岡でギターショップを始めることになった。彼は元々静岡の有名なギターショップで20年以上働いていたベテランで、数年前にその店を辞めたのだけれど、自分の店が持ちたい、と今回一念発起したわけだ。その開店準備を少し手伝ったり、話を聞いたりしているうちに自分でもやってみようかな、と言う気にだんだんなってきてしまった、というのが顛末である。この友達に色々教えてもらえる、と言うのは大きなアドバンテージだった。そこで彼に協力を仰ぎ、「師匠」と呼ぶことにした。師匠の店は、どちらかと言うと修理、メンテナンスがメインである。元々働いていた時のお客さんがたくさんいるので、安定的に仕事はあるのだと言う。もちろんお店には下取りや委託の依頼も多くあるので、中古のギター販売も行っている。

静岡市葵区音羽町にある。もともと洋服の仕立て屋さんだった。

一方で僕の方は、ギターメンテナンスの経験・技術はほとんど無いので、中古ギターを仕入れてオンライン・ショップで販売する、ということにしようと思った。ネットの世界で、ミニマムに、要領よく、効率的な商売がうまいことできないものか、と考えた。正直言ってウェブの専門的な知識も経験もなかったが、少し素人くさいぐらいの感じがきっといいんじゃないか、などと甘く考えていた。また、弾きもしないアコースティックギターを何本も保有していたので、まずはこれを在庫とした。

以上のようないい加減な理由でギターショップを始めることにしたのだが、今となっては悪くない選択だったと思う。好きなことを仕事にする、というのは大事なことだ。本が好きなら本屋がいいし、花が好きなら花屋がいい。ギターが好きなので、良いギターを触っていれば幸せな気分になるし、いろんな調べ物も楽しいし、サドルやナットを根気よくヤスリで削ったりするのも全然苦にならない。

店舗を借りる

近所にお店ができそうなところがないかと探していると、住宅地の真ん中に、店舗としては使えないが10坪少しの平家の一軒家で、倉庫や教室として使えます、と言う物件が比較的安い家賃で出ていた。これなら、オンラインショップの倉庫としてピッタリだ、と思った。2022年の6月末に申し込んで、7月20日から借りることにした。家賃は10万円しない。敷金3ヶ月、礼金1ヶ月、そのほかに仲介手数料1ヶ月、保証委託料というのが1ヶ月、家賃以外に合計6ヶ月分が初期費用として必要だった。店舗の敷金は10ヶ月分などというのが相場だと聞くので、それに比較すれば破格の条件だ。

倉庫としてなら、そのままでも使えないことはなかったが、そこで過ごすことも増えるだろうし、お客さんが来ることもあるかもしれない。少しおしゃれな感じにリフォームできないかな、と考えた。近くの工務店で電気系統も含めてリフォームできそうなところを探した。予算はざっくり100万円。10坪の床をビンテージ調のフローリングに、壁はクロス張り、天井にもペンキを塗って、照明はレール式のスポットライトに。空調も古いものを取り外して、新規に導入。ギターの管理に空調は必須だ。

一つだけ問題があった。部屋の中に巨大な金庫が置いてあったのだ。最初、借りる場合はこれを撤去してもらえないか、と大家さんにお願いをした。しかし色々話をしてみると、あまりにも大きすぎて、撤去が難しいとのこと。床を痛めたりして、余計な費用がかかるかもしれない、と。結局そのままになったのだが、リフォームをお願いした工務店さんの提案で、床に貼った杉材で、取り囲んでしまおう、ということになった。それで、結果的には何とも部屋に馴染んで違和感の無い感じになった。

いわゆる開かずの巨大金庫
こんな感じに囲んでくれた

備品の調達

必要な備品はできるだけお金をかけないように工夫した。テーブル、イス、ソファ、40型テレビ、冷蔵庫、電子レンジは「ジモティー」で調達した。ジモティーは、都会に住んでいて、車を持っていたら、とてもいい仕組みだ。欲しいものを近所で検索すればほとんどのものは調達できる。新しくて安いものは人気があるのでなかなか難しいが、それなりの金額を払えばお店で新品を買う半分以下の値段で、それなりのものが調達できる。ちなみにビンテージ調のダイニングテーブル・イス2脚・ベンチセットが15,000円、40型4Kテレビ20,000円、ソファ8,000円、冷蔵庫10,000円、電子レンジ5,000円、合計6万円程度で揃った。あとは自宅から使っていないものを持ち込んだ。食器、調理用具。湯沸かし器。子供のために買ってほとんど使われていなかった電子ピアノ。そしてステレオセットとレコード、CDのコレクション。テント、椅子などのキャンプ用品。おばあちゃんが使っていた大正時代の長持。結構スペースがあるので冬タイヤなども置いている。住んでいる部屋がだいぶスッキリした。

これらの家具・備品をジモティーで調達

会計ソフト

個人事業主となるので「Freee」という会計ソフトに契約した。月2,000円のスタンダードプラン。確定申告をはじめとする税務署への届けが、ストレスフリーで可能になる。事業を始めるにあたっての「開業届」の提出もパソコンから難なくできた。もしこれがなかったら大変だった。日々の仕入れ、経費、売上の入力も簡単この上ない。レシートをスマホで写せばデータを取り込んで、自動仕訳までしてくれる。これから個人事業主になる、という人にはオススメします。

サイト構築サービス

オンライン・ショップを始めるにあたっては構築サービスを選ぶ必要がある。一番重要なのは費用。下の図のような比較をした。定額費用と従量課金との組み合わせで、一番安いところが「shopify」だった。「base」なども安いのだが、月額費用が無料でも売上金額に応じての手数料率が高くなるとギターのような単価の高い商品には合わないかな、と。

実際はプランはこれ以外にもあるのですが、簡略化しています・・・

またもうひとつ大きな理由はshopifyのサイトデザインが洗練されている、という点。また今考えると海外向けの販売も視野に入れると機能的にもshopify一択であった。使い勝手に関しては、もしかしたらbaseの方が日本人には合っているのではないかと想像するが。

古物商の登録

中古ギターを販売するには所轄の警察署に古物商の登録申請を行う必要がある。7月に警察署に電話で予約をして、防犯係というところに出向いて、必要書類を提出して登録料19,000円を払う。防犯係というのは普通に犯罪を担当する部署なので、取り調べ室みたいなところで書類を提出するときはなかなか緊張する。ネットを見れば細かく説明が載っている。少しめんどくさかったのが、ショップのサイトがこの時点ではまだ無かったので、サイトを開設した11月に改めてサイトのURLなどの変更届出を行う必要があったこと。いっぺんに済ませれば楽ちんだった。

ネット回線

オンラインショップなのでネット回線が重要なのだが、これが正直失敗した。
工事などもめんどくさそうだし、料金も安そうだぞ、ということでソフトバンクエアーの「モバコレ」というサービスに申し込んだ。家に囲まれている場所だからだろうか、回線が弱く安定しない。時々全く繋がらなくなる。そういう時は携帯の電波で繋ぎ直す。何のためのwifiかわからない。もう一つ文句としては、キャッシュバック、というのにつられて契約したのだが、そのキャッシュバックを受けるための手続きが、想像を絶する煩雑さなのだ。何だか壮大な謎解きゲームに参加しているような気分になった。契約月から10ヶ月目の月に、契約時のメールに載っているurlから申請書をダウンロードして印刷し、手書きで記入捺印して、FAXで送れ、と。しかも前月の請求明細も印刷して同送しろ、と。もし書類に不備があってもこちらからは連絡しないので覚悟しろ、などとにかくひどい。ムキになって完璧な書類を指定通りに提出した。36,000円のキャッシュバック、先月無事振り込まれた。これからケーブルのwifiを検討したい。

運送会社との契約

今回はヤマトとJPに連絡を取った。
ヤマトのサービスドライバーは、思った通り感じがいいし、いちいち気が利いている。タリフと呼ばれる料金表は取引先別に設定される。少しおまけしてくれた。ただ、送る商品の値段が30万円までだという。これは運送に伴う保証の制限によるものだ。しかし30万円以上のギターも扱う必要があるので、別契約が必要となった。当然料金も違う。契約書も2通必要なので、印紙代も2倍かかった。
また、JPとも契約を行った。こちらは海外向けの発送でEMSというサービスを使うためだ。営業担当者が訪ねてきて、話をした。ギターに興味があるらしく、色々聞かれた。自分でも古い日本のフォークギターを持っていて、価値があるものなのか知りたいとのことだった。JPには国際郵便の手続きが行えるwebサービスがあり、ここで宛先の住所を入力すると、税関への申告資料なども含めて必要書類が自動的に印刷される。非常に使い勝手がよい。国際郵便と言うとハードルが高いと思われがちだが、意外と簡単だ。

アメリカ合衆国の税金

海外への発送はまだアメリカ向けにしか行っていないが、いろんなことがわかってきた。まず関税。ネットで調べても中古ギターを日本からアメリカに輸出した場合の関税についてはよくわからない。実態としては僕のお店のような規模では「課税されない」ということのようだ。課税される場合には、アメリカの税関にて請求され、それを運送会社が立て替え、配送時に受取人から徴収する、という流れだと思うが、これまで何人かに聞いた例から言うと関税は徴収されていない。個人輸入された中古ギターは課税対象外のようだ。また、そのほかにアメリカの税金としては「売上税」という日本でいう消費税のような税があるのだが、これも一定の売上に満たない僕のような事業者は免税されている。しかし、「Reverb」経由で販売する場合は、「Reverb」が購買者から徴収して各州に対して支払いが行われている。「Reverb」は売上が大きいので、課税対象事業者なのだ。なので、アメリカのお客さんは、「Reverb」で買うよりも、僕のサイトで直接買った方が大分安く済む、ということになる。

EMSのトラブル

JP経由でのEMSでは、アメリカ向けだと10日間前後で到着する。20万円以上のギターだと、日本の税関で止められて、ワシントン条約に違反するような木材(ブラジリアン・ローズウッドなど)が使われていないか、などのチェックが入るため、少し遅くなる。ちなみに毎回同じ担当の方から電話がかかってきて、ギターの材質などを質問される。何とも慇懃な話し方をする人で何だか馴染みができた。20万円以下のギターの場合、最速で5日ほどで届いた事例もある。

また、一度だけ困った事件が起こった。ギターを買ったアメリカのお客さんから、荷物の進捗状況が止まっている、との連絡があった。確かに EMS追跡のサイトから見てみると、一週間以上止まっている。
これはおかしいと思っていたところ、Fedexのエイミーさんという人から、あなたの店からの荷物が当社の倉庫にある、という連絡が入った。なんでEMSの荷物がFedexの倉庫にあるのか。しかし、宛先を教えてもらえれば配達してくれる、という。そのための費用は誰が負担するのかな、などと心配になりながらも、とにかく無事に配達をお願いしますと頼み込んだ。結局2週間以上かかったが、何とか配達をしてくれた。エイミーさんとは何度もメールのやり取りをして、何だか親しみまで湧いてしまった。日本を出荷してから一ヶ月以上かかったが、お客さんからは無事に届けられるように手配をしてくれありがとう、と感謝された。嬉しかった。

エイミーさんからのメールの文面。絵文字がカワイイ。

英語翻訳ソフト

ところで、こうしたEメールのやり取りについてだが、僕はほとんどDeepl翻訳ソフトを使っている。iPhoneの時はGoogle翻訳を使う。とにかくそれがないと英語でのメールのやり取りはできない。こういう環境があって、外国の人とビジネスができるというのは喜ばしいことだ。

お店の宣伝

全く知名度の無いお店なので、宣伝をしないといけない。お金をかけない、となるとSNSしかない。今若い人はフェイスブックは使わないらしいので、インスタとツイッターのアカウントを作った。また、ショップサイトにもブログを掲載することにしたが、それをそのままnoteに投稿することにした。また、サイトの商品ページにはギターの試奏動画を掲載しているのだが、youtubeの動画リンクを繋げている。今現在フォロワーは、インスタが220人、ツイッターは73人、youtubeはチャンネル登録11人、noteは19人、という体たらくだが、それでも宣伝効果はあると思う。今までのお客さんみんなに聞いたわけではないが、noteみました、とかyoutubeで見まして、とか言ってくれる。フォロワーの数ではなく、どこかに入り口がある、ということが大切なようだ。

お店のインスタ。2,3日に一回は投稿するように頑張っている

お店の立ち上げ

というわけで、7月に倉庫を借り、8月にリフォーム、9月から環境整備をして、販売サイトを準備・商品を登録し、10月の終わりからようやくサイトをオープンした。2022年10月24日。オープンすぐは、フェイスブックで告知したり、それを友人が拡散してくれたり、でサイトへの訪問人数も一日に100人を超えるような日が何日かあった。しかし数週間すると、閑古鳥が鳴くことになる。一日に一人とか、二人しかサイトを見に来ない。これは困った、と思い、インスタを毎日上げ、noteにブログを書きまくり、新しいギターを仕入れ、静岡の師匠の店のギターもラインアップさせてもらったりした。加えて「Reverb」に口座を作り、アメリカ向けにも販売を開始した。ショップサイトにも英語の説明文を加えた。そんなことをしているうちにギターが一本も売れないまま、年末を迎えた。

はじめてのチュウもん

年始、これからどうしたらいいのかなあ、とぼんやり考えていたところ、サイトの問い合わせフォームから一本のメールが来た。在庫している古いローデンに興味があるので試奏させてもらえないか、という内容だった。飛び上がって喜び、対応した。
結局翌週ぐらいに倉庫まで足を運んでくれ、ギターを弾いて、その場で購入を決めてくれた。1月22日。初めてのお客さん。嬉しかった。

今年に入ってからの稼働状況

その後、2月に2本、3月に3本と注文が入るようになった。並行して、静岡の師匠の店でも僕の店の在庫を販売してくれていので、2月からは月間の経費に対して赤字を計上せず運営することができている。口座を作った「Reverb」でもこれまで5本ほど売れた。全てアメリカ合衆国。
利益の額は少ないが、何とか商売として成り立ってきた、というのが本当に嬉しい。こんなことを言うと知り合いからは嫌味に聞こえるかもしれないが、知り合いからギターを買ったもらったことは一度もない。全てネット経由で情報を見て買っていただいたケースのみである。海外の割合が3、4割ある。想定していたよりも多い。円安の影響もあるのだろう。日本に住んでいる外国の方や、日本に旅行に来たついでに買っていかれたお客さんもいる。そういう国際交流が出来る、というのも意外な収穫であった。

ぶっちゃけの採算

売り上げに対する粗利率は25%程度。それしか儲けがないの? と不思議に思うかもしれないが、こんな弱小が競争できるのは、価格ぐらいしかない。経費を極力抑えている、ということもある。今年に入ってから現在まで、月間に平均で3本程度、70万円くらい、仕入経費を差し引いた粗利益は20万円いかないくらいである。しかし家賃含めた経常経費が10万円くらいなので、月に10万円近くは利益が出ているということになる。ちゃんとした楽器店から見たら鼻で笑われると思うが、当初自分が思い描いていたよりもずっとうまく行っている。

これから

このまま、やっていけるとも思っていない。まだまだ考えなければいけないことがたくさんある。仕入ルートも開拓する必要がある。販売する品目も増やしたい。現在はアコースティックギターばかりだが、エレキも扱いたい。変わった楽器も増やしたい。アイリッシュトラッドに使う、ブズーキやマンドリン、バンジョーなども扱いたい。6月にアイルランドに研修旅行に出かけたが、現地メーカーの楽器を専売することなどできないか、また中古楽器を買い付けられないか、などと夢は膨らむ。静岡の師匠の知恵やネットワークも借りたい。ただやみくもに拡大したいと思っているわけではない。そこに楽しみや、喜びがなければやる意味はない。それが最優先であり、それを突き詰めたら、もしかしたら1年後はギターショップをやめて居酒屋になっているかもしれない。そう言う柔軟さを持ってやっていきたい。

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